計算科学

ジェットエンジンの安全性をコンピュータでシミュレーション


山本誠 先生

東京理科大学 工学部 機械工学科/工学研究科 機械工学専攻

どんなことを研究していますか?

航空機は飛行中、様々な気象現象の影響を受けます。雲には氷点下になっても凍らない過冷却水滴が大量に含まれており、これが飛行機にぶつかると、過冷却状態でなくなり氷ができます。氷はジェットエンジンや風力タービンなどに対し、空力性能の大幅な低下や剥がれた氷片による損傷など、致命的な影響を及ぼしかねません。

しかし、これまでの設計では、経験に基づいて場当たり的に安全対策が取られ、事故をゼロにすることは達成されていません。そこで、ジェットエンジンの安全性を高めるために、こうした氷の挙動を再現し、安全を妨げる現象を予測する高精度なシミュレーション研究が求められています。

私は計算科学分野の中で、流体に関連する現象に注目しています。特に、ジェットエンジンの安全性を高めるため、コンピュータ・シミュレーション(仮想実験)を用いた研究を行っています。シミュレーションによってこのような現象を高精度に予測できれば、より安全なジェットエンジンの設計・開発が可能となり、社会に対してより安全な空の旅を提供できます。また、日本の航空機やジェットエンジンメーカーの国際競争力を大幅に向上させることができるようになります。

脳動脈瘤の成長・破裂も血流のシミュレーションで予測できる

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また、脳動脈瘤の成長・破裂や治療に関する診断基準を提案するために、脳動脈瘤内の血流現象についてもシミュレーション研究を行っています。脳動脈瘤の破裂は、クモ膜下出血の原因の半数以上を占めるといわれます。脳動脈瘤の診断や治療は、ほとんどの場合、医師の経験に基づいて行われているため、病院や国によって診断・治療方法が異なっています。

脳動脈瘤内の血流現象をシミュレーションすることによって、脳動脈瘤の破裂確率や治療効果が正確に予測できるようになれば、病院や国によらず同じ診断・治療が受けられるようになり、健康社会の実現に大いに貢献できると思われます。

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台北での国際会議にて

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→重工業、自動車、プラント
  • ●主な職種は→設計、開発、研究、生産技術
  • ●業務の特徴は→機械の専門知識やシミュレーション技術が活かせる業務
分野はどう活かされる?

どのような業種に就職しても、機械工学科で勉強した専門知識・スキルがあらゆる場面で活用できます。どの企業のもの(製品)であっても、ものづくりに機械工学は欠かせません。また、現在のものづくりはシミュレーションに基づいて行われています。特に、研究や開発といった業務では、シミュレーション技術が大いに活用されています。

先生から、ひとこと

飛行機はなぜあんな形なのか。水道の蛇口から出る水が下に行くほど細くなるのはなぜか。身の周りにあるものの形や現象について、その理由を調べるとともに、自分でも考えてみてください。そこには先端科学技術につながる数多くの知見が隠されています。どんなことにも疑問を持ち、興味を持って深く考え続ける習慣を身につけるとともに、考える過程を楽しめるような人には、必ずバラ色の将来が待っています。

先生の学部・学科はどんなとこ

東京理科大学では、すべての学部・学科の研究においてシミュレーションを活用しています。シミュレーションが活用される研究テーマは多岐にわたり、宇宙の進化の解明、半導体や化学物質の創生、地球や建築物の環境評価、新薬の開発、機械の性能評価、経済活動の予測など、枚挙に暇がありません。このように、シミュレーションが重要な研究ツールとなっていますので、シミュレーションの基礎となる数学やコンピュータ・リテラシーは、どの学科の教育においても基幹科目として重視されています。

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研究室のスキー合宿

先生の研究に挑戦しよう

シミュレーション・ソフトウェアには、インターネット上で無料公開されたものがあります。例えば、OpenFOAMは、世界中で使われている代表的なフリーソフトウェアです。こういったソフトウェアを用いれば、身の周りにあるほとんどの流れが、シミュレーション可能です。鳥や昆虫の周りの流れをシミュレーションして飛行原理を考えたり、自動車周りの流れをシミュレーションして空気抵抗の小さい自動車を提案したり、川の流れや海流をシミュレーションしてゴミの堆積場所を特定したり、といったことが高校生でも容易にできると思います。

興味がわいたら~先生おすすめ本

流れのふしぎ 遊んでわかる流体力学のABC

石綿良三、根本光正

流体力学で取り扱う様々な流れを、身近なものを用いた簡単な実験で体験し、その原理を容易に理解できるようになっている。また、それぞれの流れが社会の中で、あるいは様々な工業製品の中でどのように利用されているか解説されているので、机上の空論に終わることなく、流体力学を学ぶことができる。例えば、流体力学が自動車ボディの設計や魚の浮袋などに役立っていることなど。高校生が計算科学の学問の中の流体工学に関する基礎知識を得るために最適な本。 (日本機械学会流体:編/ブルーバックス)


大空への挑戦 航空学の父カルマン自伝

フォン・カルマン

ハンガリーのフォン・カルマンは、航空工学の父、流体力学の権威で、米国で教授として長く活躍した。流れの中に障害物を置いたとき、その後方に交互にできる渦の列のことをカルマン渦と言うのは、著者の名にちなんでいる。この本は、カルマンの歩んできた歴史を書き綴った自伝の書。カルマンの生涯と航空工学の歴史を重ね合わせて書かれていて、先人がどのように困難を克服して、現在の航空機にたどり着いたか良くわかる。 (野村安正:訳/森北出版)


パソコンで見る流れの科学 数値流体力学入門

矢川元基

過去5000万年間のマントル対流が33秒のムービーになり、ほかにも地下鉄駅構内の風の流れ、地震の津波を再現など、スーパーコンピュータや独自のシミュレーションソフトで映像化、見たことのない不思議な映像が楽しめる。CGムービー18本とプログラム3本のCD-ROM付き。パソコンによる計算科学のシミュレーションがどのようにしてできるのかよくわかる。 (ブルーバックス)


ロウソクの科学

ファラデー

ろうそくが燃えるという現象は、身近な現象だが、様々な物理・化学のエッセンスが濃縮されている。著者のマイケル・ファラデーは、19世紀の化学者・物理学者。電磁気学および電気化学の分野での貢献で知られている。本書はファラデーが1860年にクリスマス・レクチャーとして行った講演の記録。 (三石巌:訳/角川文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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