物性Ⅰ

光を使い尽くそう!


石原一先生

大阪大学 基礎工学部 電子物理科学科 物性物理科学コース(基礎工学研究科 物質創成専攻 未来物質領域)

どんなことを研究していますか?

太陽電池や太陽光発電は、環境にやさしい自然エネルギーとして大いに期待されています。しかしあまりよく知られていませんが、通常の太陽電池は材料の性能上、利用できる波長領域は、近赤外~可視光の領域だけです。これ以外の光のエネルギーは電気に変換されず、無駄に捨てられてしまいます。

このようなムダを省き、光を使い尽くす新しい太陽電池の技術が求められています。また光には、微小な物質に力を働かせ、物質を動かす能力があります。日常では知られていないこのような光の性質を使い尽くすと、微小物質を自在に組み立てて新しい材料がで作れるかも知れません。

光とナノスケール物質との相互作用で新しい光機能を創る

私は、光と、ナノスケールの非常に微小な物質との相互作用を理論的に研究しています。ナノスケールの構造を持つ物質は、我々が通常目にするサイズの物質とは、まったく異なった性質を持ちます。例えば同じ原子の同じ配列の結晶でできていても、サイズや形状が異なると別の物質になってしまうという性質があります。それが光とどのように相互作用し、どのような光機能を生み出すかを研究することで、新しい光機能を創造することができます。

例えば、エネルギーの利用効率の悪い赤外の太陽光を効率的につかまえて集め、可視光に変換する機能が実現されれば、次世代の光素子提案に結びつく可能性があります。また光の力で特定の分子を選びだし、所望の場所へ運ぶことが出来たら、新しい材料を自在に組み上げる技術が実現するかもしれません。

2018年11月17日、ららぽーとエキスポシティーでの「大阪大学とあそぼう」の企画で、レーザー光の力でマイクロ微粒子を捉える実験を、実際に子どもたちに挑戦してもらいました。大きなモニターに捉えた微粒子が映し出されます。朝から夕方にかけて400人ほども親子が来てくれました。
2018年11月17日、ららぽーとエキスポシティーでの「大阪大学とあそぼう」の企画で、レーザー光の力でマイクロ微粒子を捉える実験を、実際に子どもたちに挑戦してもらいました。大きなモニターに捉えた微粒子が映し出されます。朝から夕方にかけて400人ほども親子が来てくれました。
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→電機、機械、精密、化学、情報、エネルギー、重電など多岐に渡っています。

●主な職種は→企業の研究・開発、大学教員、国・自治体の研究所の研究員 

●業務の特徴は→企業の基礎研究から開発、品質管理、設計など多様ですが、主体性が重要である仕事が多いようです。

分野はどう活かされる?

強調したいことは、どの分野でもそうだと思いますが、大学で研究していた内容が直接活かされるケースはむしろ少ないということです。我々の分野は物理中心ですので、物理の基礎が活かされることは一般的にありますが、修士で就職する場合(我々の研究室ではほとんどが修士以上で就職します)、テーマが変わることはもちろん、分野も多岐に渡って変化します。

大事なことは大学で学んだ専門知識や技能そのものではなく、専門知識の身につけ方、新しい技能の習得の仕方、研究の仕方、また新しい研究テーマの立ち上げ方自体を、一流の研究経験を通して身につけていることが重要で、そのような素養が活かされている場合が多いと考えています。

先生の学部・学科はどんなとこ

大阪大学の理系学部の一つである基礎工学部は、理学部が担う科学と工学部が担う技術を融合するという理念の基に創設されました。物性・化学・情報・システム等の分野を中心に、理学と工学の双方に通じ、またその垣根を越えた人材を養成しています。

その中でも電子物理科学科は、「電子・光」の基礎科学に基づいた新しい機能材料やデバイス・システムについての教育・研究が使命となっています。近年、情報技術(IT)、人工知能(AI)技術が著しく発展していますが、それらのどの分野も物質科学、光科学に基づいた技術なしには成り立ちません。エレクトロニクス・太陽電池の半導体、現在のクラウド技術を支える磁性体技術など、物質科学上の発見・発明が、産業や社会を変革してきました。電子物理科学科ではこのような変革をめざして、世界トップレベルの「電子・光」研究を行うための素養を身につけます。

ほとんどの人が大学院に進学しますが、そこでは上でも述べたように、特定の知識や技能を身につけること自体が目的ではなく、一流の研究の主体的実践を経験することによって、「研究力」を身につけることを目標としています。就職については修士課程、博士課程でこのような「研究力」を身につけた学生が幅広い業種で活躍しています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

私たちが日頃、なくてはならないものとして使っているスマホやパソコン、クラウド、インターネットなどはすべて、物質や光が持つ高度な機能を利用しています。研究者が、それらを支える物質や材料の研究をしていた頃、一般の人はまだスマホも、クラウドも知らなかったはずです。だから最先端の物質科学を身に付けて、君たちが将来研究することになるデバイスやシステムも、きっとまだ誰も知らない見たこともないものです。そんな未知への探求から未来社会を創造する物質科学に是非挑戦してみてください。

興味がわいたら~先生おすすめ本

鏡の中の物理学

朝永振一郎(講談社学術文庫)

光物性理論、量子光学理論など私の研究する学問は、量子力学が基本になっている分野ですので、高校生レベルの知識で取り組むには背景が必要になります。なので、まずは量子力学の入り口に興味を持ってもらうような問題に取り組んでもらうのが良いかもしれません。この本は、ノーベル物理学賞の朝永振一郎先生が、ユーモアを交えながら平明な文章で説きます。 


物理学とは何だろうか

朝永振一郎(岩波新書)

天体運行に関するケプラーの模索と発見、科学的手法の開拓者・ガリレオの実験と論証、ニュートンの打ち立てた万有引力の法則など16世紀から現代に至るまで、物理学という学問は、いつ、誰が、どのようにして考え出したものなのか。本書は、日本人二人目のノーベル賞受賞学者、朝永振一郎博士の記した物理学の入門書です。「物理学とは何だろうか」ということを文章全体で体現しています。自然科学は、人間がそのような五感だけでは把握できない世界の成り立ちを理解し、それをコントロールすることによって様々な技術を発展させるのに不可欠であるということが感じ取れます。 


量子力学的世界像

朝永振一郎(弘文堂)

朝永振一郎博士の『物理学とは何だろうか』は正統な物理全般への入門書ですが、この『量子力学的世界像』はユニークな書。収録の「光子の裁判」は量子の不思議な世界の雰囲気を知ることができる名著で、一読をお勧めしたい。ユーモアに富んだ名文家でもあった同博士の論理展開とはどんなものなのか。文章を書くとは何かということを考えさせられます。 


アポロ13

実際に起こったアポロ13号事故の実話に基づくアメリカ映画。アポロ13号計画は1970年4月に実施された、アメリカのアポロ計画の三度目の有人月飛行で、途中での事故により帰還困難に陥りました。それを乗員、管制官、NASAのスタッフが知恵を出し合って、乗組員全員が無事に地球に帰還するまでを描きます。(ロン・ハワード:監督、トム・ハンクス、ケヴィン・ベーコン:主演) 


火星の人

アンディ・ウィアー 小野田和子:訳 (ハヤカワ文庫SF)

映画「オデッセイ」(リドリー・スコット:監督、マット・デイモン:主演)の原作。火星に1人取り残された科学者が、救援が来るまでの年月、水も空気もない火星で知恵を絞り生き抜いていく様子を描くSF。困難の克服に科学技術的な知恵がいかに役立つかを感じとることができます。