第4回 学問界の歴史的大事件、人工知能が誕生した1956年のダートマス会議
最近の人工知能の飛躍的な発展を見ているみなさんは、「これだけ発達したコンピュータって、もう脳に近いじゃん!?」って、気づきませんか。60年前、そのことに気づいた10人の賢人がいました。まさに綺羅星のような計算機、数学、情報、生命科学のすごい研究者たちです。1956年、この人たちは米ダートマス大学に集まり、ひと夏かけて議論してできたのが、人工知能を電子計算機で作っちゃおうという計画でした。人工知能=アーティフィシャル・インテリジェンス(AI)という言葉もその時初めて生まれました。これが学問の世界の大事件として有名なダートマス会議です。
ダートマス会議は、マービン・ミンスキーとジョン・マッカーシー、さらに2人よりやや年上の、新しく「情報理論」と言う分野を切り拓いたクロード・シャノンと、IBMのサニエル・ロチェスターが準備し組織しました。マービン・ミンスキーは言わずと知れた「人工知能の父」。人工知能以外に、哲学に関する著書でも知られています。
ジョン・マッカーシーは、米国のコンピュータ科学者。マービン・ミンスキーと並ぶ、初期の人工知能研究の第一人者の1人で、タイムシェアリングシステム(*)の考案や、プログラミング言語「LISP」を開発したことでも有名です。シャノンの情報理論は、情報通信、暗号、データ圧縮、符号化など今日の情報社会に必須の分野に育ちました。アラン・チューリングやジョン・フォン・ノイマンらとともに今日のコンピュータ技術の基礎を作り上げた人物です。
ほかに参加者としては、アルゴリズム情報理論の創始者レイ・ソロモノフ、ニューラルネットワーク、パターン認識、機械学習などに関する重要な先駆的論文を書いたオリバー・セルフリッジ。計算機科学者アーサー・サミュエル、政治学者・経営学者・情報科学者で、後にノーベル経済学賞を取るハーバート・サイモン、認知心理学の研究者アレン・ニューウェル…。いずれの参加者も、20世紀科学史に大きな影響を与えたすごい研究者ばかりです。
ちょうど日本では、手塚治虫先生のSFアニメ『鉄腕アトム』が誕生したころのことでした。人工知能研究はわずか60年で飛躍的発展を遂げたのは、このダートマス会議が大きく寄与しています。そして、ダートマス会議で人工知能研究が産声を上げた10年後の1960年代、人工知能は第1次ブームを迎えるのです。ちなみに、同会議から50年経った2006年、50周年を記念して、AI@50と呼ばれる会議がダートマス大学で開催されました。
*タイムシェアリングシステム――コンピュータの処理時間を決まった短い時間に 分割し、それぞれ異なる利用者やプログラムに順番に割り当てることで、複数の主体が 同時に効率的にコンピュータを利用できるようにするシステム
参考文献『コンピュータの時代を開いた天才たち』デニス・シャシャ、キャシー・ラゼール