国際関係論

持続可能な社会の形成に向けた政治のあり方を探求する 


髙橋若菜 先生

宇都宮大学 国際学部 国際学科/地域創生科学研究科 社会デザイン科学専攻 グローバル・エリアスタディーズプログラム

どんなことを研究していますか?

環境問題は、本質的には政治問題であると捉え、座学だけでなくフィールドスタディを通じて、持続可能な社会を実現する政治のあり方を探求しています。世界の地域や国家などのレベルで環境取組が大きく異なる理由に関心を持っており、複数の事例研究や国際比較を進めています。最近、よく研究している国の一つに、スウェーデンがあります。スウェーデンの一人当たりのCO2排出量は年間4.4トン、日本の半分以下です。車の利用が多く、冬の寒さ厳しい北国であることを考えれば、驚くほど低いと言えるでしょう。再生可能エネルギー利用率が5割超であることが、その一因です。

と言っても、メガソーラーはほとんどありません。風力発電はありますが、電気より熱や燃料としての利用が多いのです。熱利用の例は、最近拡大している地域熱暖房です。木質バイオマスやごみなどの焼却熱、工場の排熱を利用した温水をパイプで地域に循環させ、熱交換器で暖を得るという方法です。燃料利用では、生ごみを発酵させて作ったバイオガスを主成分とするE85燃料もあります。公共バスで広く使われ、ガソリンスタンドでも買えます。家庭ごみは、人々の生活を豊かにする、再生可能エネルギーとして広く活用されています。

かつて環境先進国だった日本は後退しつつある。今は世界に学ぶ番

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スウェーデンが、脱炭素社会に向かって着実に変革を遂げつつある一因に、未来のあるべき姿・目標を定め、そこから今を変革していくという、国や自治体の戦略的で効率的な政策形成の仕方があります。これをバックキャスティングと言います。スウェーデンは選挙の投票率が8割と高く、市民も積極的な脱炭素政策、循環経済政策を支持しています。気候危機への強い危機感もありますが、気候対策は経済成長や雇用創出につながると多くの人が捉えています。徹底した情報公開、報道の自由度の高さ、地方分権、開かれた政策形成プロセスと、様々な次元での市民参加・女性参加の高さなどは、総じて多様性を重んじる、人に優しい環境政策作りを可能にしています。もちろんスウェーデンも、試行錯誤の繰り返しですが、日本にとって大いに参考になる環境取組みや政治的工夫が多くあると言えるでしょう。

このほかに、東京電力福島第一原発事故後の被災者、特に放射線に弱いとされる乳幼児や妊産婦を抱えた避難者たちの記録継承にも携わっています。世界史級の環境災害である原発事故が、社会や人々の生活に何をしたのかを残すことは、我々世代の責務と考えています。一方、多様性を重んじ、生活者、被害者、弱者の視点に寄り添うことは、ヒューマニズムにかなうだけでなく、幸福度を向上させ持続可能な社会形成にも貢献するのだと、これまでの歴史が証明しています。被害の可視化は、持続可能な発展に向けた出発点です。

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スウェーデンヨーテボリの焼却施設調査

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→サービス業(旅行会社等)、マスコミ、IT、メーカー、金融、行政等、様々です。
  • ●主な職種は→営業、企画、製品開発、事務、製造、IT、その他、様々です。
分野はどう活かされる?

最近は、再生可能エネルギーの普及、リサイクルシステムの形成、企業の環境報告書作成、脱炭素社会の行政での環境シンポジウムの企画開催等、環境問題に直結する仕事をしている卒業生も増えています。今や環境を考えない企業は生き残れない時代になりつつあります。持続可能な社会のための地球市民としての知識や思考方法は、いずれの業種、職種にも有意義であると思われます。

先生から、ひとこと

脱炭素社会への取組みが、経済活動を抑制したり日常生活の不便につながると考える市民が多いのは、日本ぐらいです。日本の常識、世界の非常識。常識を疑い、ささやかな疑問を育て、歴史や、世界に学びませんか。皆さんの時代の持続可能性を切りひらくヒントが得られるでしょう。

先生の学部・学科はどんなとこ

宇都宮大学国際学部の国際社会・文化・交流の分野は、コミュニケーション能力、問題設定解決能力、異文化理解能力を重視し、グローバル人材の養成に努めます。小さな学部でありながら多言語を学ぶことができ、約半数の学生は交換留学で世界中で学んでいます。少人数教育による手厚い指導が特徴です。

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足尾松木村を学生たちとフィールドワーク

先生の研究に挑戦しよう

グローバリゼーションが進行する今日、身近な環境問題や取り組みも、世界レベルの環境問題と密接につながっています。エネルギー、食糧、衣服、ごみ…。ローカルな日常生活の営みは、世界とどのようにつながっているのでしょうか。そこにはどのようなアクターや制度が有り、解決が図られているのでしょうか。その解決方法は本質的でしょうか。ニュースを見て、あるいは日常生活の中で、感じたささいな違和感を膨らませ、柔軟に思考を巡らせてみてください。

興味がわいたら~先生おすすめ本

世界を見るための38講

宇都宮大学国際学部:編

「栃木というローカルな地域において、グローバルかつ普遍的な視点に立つ」宇都宮大学国際学部の38名の教員たちが、国際関係、アジア、文化、多言語、足元の地域、遠方の地域、学問の方法の7つの切り口から、複雑で多様で繊細、そしてますます混迷を深める世界を、自分の目で見るための「窓」を提供する。スウェーデンのごみ分別の現場を探り、スウェーデンが生き残りをかけて、持続可能な都市形成を戦略的に進めていること、福島原発事故後の乳幼児や妊婦の被害者状況を明らかにし政策提言していることなど、多様なテーマの38講。 (下野新聞社)


原発避難と創発的支援 活かされた中越の災害対応経験

高橋若菜、田口卓臣、松井克浩

かつて中越・中越沖の震災を経験した新潟県は、福島原発事故において、いち早く対応し、次々に有効な支援を打ち出した。新潟県の全面的なサポート体制を、新潟県職員や中間支援組織職員の証言や、新潟県による避難者アンケートから紹介する。 (本の泉社)


お母さんを支えつづけたい 原発避難と新潟の地域社会

高橋若菜、田口卓臣:編著

原発事故から何年も経った今日も、多くの人が全国で避難生活を続けており、その中には大勢の母子も含まれる。避難する母子たちと温かく迎え入れた地域社会で、人と人がつながる様子を描く。支援者インタビュー、避難者からの手紙、子育て福祉専門家の解説、編者による原発避難の現状のデータ解説を収録。 (本の泉社)


多文化共生をどう捉えるか

宇都宮大学国際学部:編

「多文化共生に関する体系的な学び」を提供する宇都宮大学国際学部の教員たちが、それぞれの研究テーマや地域を横断し、多文化共生をめぐる「旅」へ誘う。環境や持続可能性の問題については、花粉症や放射性被ばく問題を例に、科学を相対化し、倫理や社会、また文化にまたがる問題として、多様な価値判断を尊重する姿勢が指摘されている。学際的、国際的に多文化共生社会を学ぶ入門書として最適な一冊。 (下野新聞社)


科学は誰のものか 社会の側から問い直す

平川秀幸

科学技術の進歩がそのまま幸せな未来に続く、という明るい希望を素朴に信じられた時代は過去のものになり、科学技術は「社会問題」を数多く引き起こしている。遺伝子組換え作物から再生医療まで、暮らしに深く関わる科学技術の問題にどう向き合うかを、哲学、政治学など文系のアプローチを用いて考察した、科学社会技術論の入門書として最適な一冊。 (NHK出版)


グローバル・グリーン・ニューディール 2028年までに化石燃料文明は崩壊、大胆な経済プランが地球上の生命を救う

ジェレミー・リフキン

20世紀は化石燃料資産が過大評価される「カーボンバブル」の時代であったが、再生可能エネルギー技術の急速な発展と、危機的状況にある気候変動問題により、その崩壊はもはや目前となっている。そこで、1930年代の「ニューディール」政策に匹敵する経済政策の大転換、「グリーン・ニューディール」―すなわちスマートでデジタル化されたインフラの整備、社会の脱炭素化、グリーン経済部門における雇用創出等―が必要とされている。過去20年にわたりEUおよび中国でゼロ炭素社会への移行に向けて助言を行ってきた著者が、新たな経済社会のビジョンを示した一冊。 (幾島幸子:訳/NHK出版)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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