人文地理学

なぜ産業は地理的に集中するのか~「産業の立地と地域・場所との関わり」を探る


藤田和史 先生

和歌山大学 経済学部 経済学科/経済学研究科 経済学専攻

どんなことを研究していますか?

それぞれの地域には、漆器や織物のように地域性を生かした特徴的な産業があります。またIT企業が集積しているシリコンバレーのように、類似した産業が特定の地域に集まる傾向もあります。それはどうしてなのか、地域性の持つ固有性から考察したり、一般的な傾向を探ったりするのが、人文地理学です。

私は、地域の中でも企業が多く集まっている「産業集積地域」を研究対象にしています。特に焦点を当てているのが、試作開発を行なって新しいモノを生み出している中小企業が集まる地域です。一口に「産業集積地域」といっても、例えば東京都の大田区や東大阪のような大都市圏と、長野県の諏訪市、茨城県の日立市といった地方とでは、地域の様子も企業の性質や役割も違います。同じ現象の何が共通し、何が異なると結果が違うのか、場所だけの問題なのか、ほかの原因があるのかということを考察しています

また、最近では、産業と地域との関わりについて、「風土産業」や「スモールビジネス」などの観点から、より地元に密着した研究も行っています。風土産業としては、和歌山のシュロを利用した家庭用品の産業、一度は廃れたものの再注目されているブドウハゼなど、地域の資源や環境と結びついた産業の持続的なあり方に関する研究を、地元の企業や人々と協働して研究を進めています。スモールビジネスとしては、徳島県の小さな町で進んでいるサテライトオフィスの立地や、それに関わる地元の活性化について研究しています。

「新しい“何か”を生み出し続ける」産業集積地域の秘密を探る

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試作開発を行う中小企業は、一般的にほかの中小企業よりも技術や商品の面で強みを持ち、それによって稼ぐ力が高い企業です。なぜ試作開発をすることができるのか、その経営・技術の基礎はどのようになっているのか、産業集積地域という環境が、そこにどう作用するのか。近接する経済学・経営学と共通する、これらの重要なテーマを、地域や企業間のつながり、知識・学習の点から研究しています。

このようなことが明らかになれば、産業集積地域の形成を政策的に支援することも可能になり、地域産業の振興や、地域経済・中小企業政策にも応用が期待できます。

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和歌山県橋本市。ゼミでの野外調査の様子

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→公務員、JA、経済団体、金融機関、流通業、インフラ企業など
  • ●主な職種は→行政職、国税専門官、消防・警察、専門職、民間総合職など
分野はどう活かされる?

信用金庫など営業職や、インフラ企業・流通業ではGIS・立地分析などで活躍しています。

先生から、ひとこと

地域を知ることは、現在・過去・未来を知り、考えることにつながります。特に、地域の現在を知ることは、過去のことを振り返り、将来を予測する材料を私たちに提供してくれます。実際にその土地で、自然や人間とふれあいながら、地域を学ぶ楽しさを知ってもらいたいと思います。

先生の学部・学科はどんなとこ

本学では、人文地理学関係の教員が、教育学部、経済学部、観光学部の3学部、自然地理関係(生態学・農村計画)の教員がシステム工学部に配置されており、研究・教育・社会貢献に従事しています。

経済学部では、経済学科に都市政策や交通政策などの関連分野の教員が配置されています。2016年の経済学部の学科再編の際に、地域系・政策系の教員が結集して「地域公共政策・公益事業プログラム」を創設しました。このプログラムでは、将来、地方公共団体・公共機関や公益企業体などに就職して地域の現場で働く人材を育成することを目指し、地域指向の科目、フィールドワーク科目や室内実習科目も配しました。2020年春、プログラム第1期生が卒業しましたが、プログラムでの学びで得たことを生かして、自治体や公益企業体で活躍を始めています。

このプログラムで、私はフィールドワーク・室内実習を担当し、産業集積を含めた地域にかかる諸問題、地域理解に関する教育を、人文地理学の立場から行っています。また、卒業研究指導では、経済学部にあっても経済地理学に限らずに、所属ゼミ生の多様な関心に応じて、産業・文化・人口・地域活性化など多様なテーマでの卒論執筆を認めています。

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長野県下諏訪町を訪ねて、野外実習の授業

先生の研究に挑戦しよう

地理情報システム(GIS)とGPSを利用した防災マップづくり、まちなか観察マップ作りや、地元企業の観察などフィールドワークなどに取り組んでみましょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

都心集中の真実 東京23区町丁別人口から見える問題

三浦展

「ファスト風土」などの言葉を生み出した都市論で複数の著書を持つ著者が、東京23区の詳細な人口データを分析することを通じて見えてきた課題と可能性について著した書籍。複数のデータを組み合わせて実際の地域を分析し、さらに現地での観察などによって、「地域のみかた」を初心者にもわかりやすく提示してくれる。事例は東京だが、単に知識として摂取するだけでなく、規模の大小や現象自体を読者の地元と対比して考えることで、より深い知的好奇心をかき立ててくれるだろう。 (ちくま新書)


たんけんぼくのまち

NHK教育テレビで1984年から92年まで放送された、小学校3年生社会科の番組をDVD化したもの。地域の見かた、考え方、まとめ方の基本が小学生向けにわかりやすく示されているが、大人が観ても非常に面白くためになる。 (NHK)


高杉さん家のおべんとう

柳原望

人文地理学の中でも、生業(なりわい)に関する文化地理学的な視点を多分に含んだコミックス。全12冊。主人公は地理学のオーバードクター。地域おこしなど現代的なトピックスも扱っており、楽しみながら人文地理学に関する基本的な考え方を知ることができる。姉妹作に『かりん歩』がある。 (メディアファクトリー)


SHIROBAKO

アニメーション制作を題材にしたアニメーション作品。アニメーションがどのように制作されていくのか、制作現場の現状や技術、働く人の熱意だけでなく、フィクションを織り込みつつ産業の連環構造が理解できるように描かれている。 (P.A.Works 武蔵野アニメーション:原作、水島努:監督)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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