人文地理学

ブラジルやハワイにも?!「よさこい祭り」が広まっていった過程を明らかに


内田忠賢 先生

奈良女子大学 文学部 人文社会学科 文化メディア学コース/人間文化総合科学研究科 人文社会学専攻

どんなことを研究していますか?

「よさこい」は、もともとは「よさこい鳴子踊り」という高知県のお祭りでしたが、宮城の「みちのく YOSAKOI まつり」、東京「スーパーよさこい」、愛知「にっぽんど真ん中祭り」など、今や全国に広がっています。私は、この「よさこい祭り」が国内外の様々な地域へと広まっていった過程を研究しています。

よさこいで使われる楽曲は、民謡や日本舞踊など日本の伝統文化を織り交ぜたものでした。しかし、国内の様々な地域に広まっていく中で、独自の音楽や衣装を使って、踊りにもアレンジを加えた創作的なイベントへと変ぼうしていきました。今ではロック調やサンバ調のよさこいもあり、ブラジル・台湾・ハワイといった地域へ広がっています。私は、資料に基づいて伝播の過程をたどるだけではなく、審査員やスタッフとして各地のよさこいに参加して実地調査を行なっています。

娯楽や祭りを調べ、背景となる社会や文化を探る

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私の関心は、こうした娯楽と祝祭です。近現代の人々のレジャーや旅、地域イベントの諸相を詳しく調べ、その背景となる生活文化や社会のメカニズムを解明しています。地域の過去の姿をたどりながら、当時の社会や文化に思いをはせる、あるいは、地域活動などから人々の知恵や楽しみを記録し、そのメカニズムを考えます。それらの研究により、幸せな生活のあり方を提示できます。肝要なのは、現象を調べながらも、その後ろにある社会や文化を追及することです。

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授業の一環で、インドネシアの調査へ

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→マスコミ、公務員
  • ●主な職種は→記者、マーケッター、地方公務員
  • ●業務の特徴は→フィールドワークをしたり、取材をしたり、足で情報を集め分析すること

先生から、ひとこと

地理学は大きく、自然環境を扱う自然地理学(地形、気候、水)と、人間生活を扱う人文地理学に分かれます。人文地理学では、身近な地域から世界規模までの人間活動(政治、経済、社会、文化…)をカバーします。歴史といえば、ある時代の…と静的な印象がありますが、それに対し、地理は地域や世界の動きに敏感です。ブラジル産のコーヒー豆が、日本の小売店の店頭に並ぶまでの道のりやその背景、プロセス、その変化を想像するとワクワクする…そんな感覚こそ地理学の本質だと思います。

先生の学部・学科はどんなとこ

奈良女子大学には、専門領域が重複しない6名の地理学者が揃っており、地域研究の視点・方法を幅広く学べます。すべて文学部に属しますが、地理学の軸である地域環境学コース4人(地形学、 気候学、社会地理学、行動地理学・GIS)、社会情報学コース1人(都市地理学・GIS)、文化メディア学コース1人(文化地理学)の教員がおり、地理学の学びをサポートします。なお、令和4(2022)年度の入学者からは、コース再編に伴い、6名の教員が新「地理学コース」に集まり、学びの質を高めます。

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神戸ムスリムモスクにて。フィールドワークの授業

先生の研究に挑戦しよう

地理学調査の基本は、小学校の生活科、中学校のフィールドワークなどで、ほとんどの生徒が体験しています。調べ学習だと思われていますが、身近なモノ、コトが実は世界とつながっています。この視点をグローカルと言います(身近なモノ、コト、ヒトから世界規模の動きを考える )。高校生でも同じです。

まずは、スーパーで並んでいる品々の産地をチェックし、日本列島や世界を想像するイメージトレーニング゙。地域に暮らす外国人と接しながら、多文化社会を実感する活動。もちろん、各種の地域活動に携わることも、地理学的な感覚を磨きます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

エビと日本人

村井吉敬

日本人が大好きなエビは輸入に頼っている。身近な食品が、グローバルな動きの中で世界とつながっているのだ。著者は地理学者ではないが、きわめて地理学的な発想に基づいて、先進国と発展途上国の格差の問題、グローバルな流通経済の問題、世界規模の文化の差異の問題などを解説する。この本がベストセラーになったのも頷けるだろう。 (岩波新書)


忘れられた日本人

宮本常一

日本各地の昔の地域社会や庶民生活を、十三篇にわたってリアルに描いている。かつての乞食の暮らしを描いた「土佐源氏」はフィクションだという説もあるものの、それを差し引いたとしてもこれまでに知られていない民俗を多く伝える書籍として名著だと言われている。 (岩波文庫)


バリ島芸術をつくった男 ヴァルター・シュピースの魔術的人生

伊藤俊治

バリ島に伝わる伝統芸術・芸能の大部分は、第二次世界大戦前に、植民地バリに滞在した一人のドイツ人が創作し、地域の人々はそれを受け入れたと言われている。地域の伝統文化と考えられているものの多くは、実は近現代に、地域外の人間に創造されたものだ。地域文化の問題を明らかにし、地域の支配・被支配の再考を迫る作品。 (平凡社新書)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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