私たちが新しいスポーツの練習をするとき、目的にあわせて身体を動かすコツを、脳は無意識下で徐々に習得していきます。しかし、その内容を自分で意識したり、言語で伝えたりすることが難しいため、他人に運動スキルを上手く伝達できないことが課題となっています。
近年の情報科学の発達により、熟練者の運動の様子をコンピュータなどで解析することにより、これまでに意識されてこなかった運動のコツを解明することが可能になってきました。このような研究によって、様々なスポーツや楽器演奏をより効率良く習得する手法の開発が可能になると期待されています。
運動する様子を解析、熟練者が無意識に獲得したコツを見つけ出す
私が研究対象としているのは、「生体情報論」や「バイオサイバネティクス」と呼ばれる領域です。それは、生体の神経系が感覚情報をいかに処理し、適切な運動や行動を実現しているかを、工学的手法で解明する学問です。
具体的な研究としては、ヒトの運動の様子の計測データから、ヒトの運動における普遍的な特徴や、熟練者が無意識下で獲得したコツを見つけようとしています。これは、スポーツや楽器演奏のコツを見つけ出すだけでなく、運動障害のリハビリ手法の開発にも役に立つと考えています。
さらに、様々な運動を実現するためのコツを脳が発見する仕組みについて、理論的な研究を推進しています。こちらは、様々な運動を自律的に学習していく人工知能の開発に応用が可能になります。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→情報、教育
- ●主な職種は→データサイエンティスト、SE、教員
分野はどう活かされる?
運動解析においても、脳機能の理論的研究においても、情報科学分野の様々な技術を駆使して様々なデータ解析やシミュレーションを行いますので、情報系の職種に就く人が多いです。
例えば、速く走るコツを探ろうとする時、「脚」という棒をいかに動かすべきかという問題に帰着させると、これは物理学の問題になります。身体を動かすための命令を出しているのは神経系ですが、この神経系はどのようなメカニズムで新しい運動を学習しているかを探ろうとすると、学習理論と呼ばれる情報科学分野の問題になります。
このように、生体の運動スキルや脳の学習メカニズムについての研究は、幅広い知識が必要とされるまだ新しい学問ですが、普段我々が何気なく行っている動作や運動を実現している仕組みが全然わかっていないことに気づかされる点で、大変面白い学問領域と感じています。
私の所属する物理・情報科学科には、いろいろな現象を情報科学や物理学の知識や技を使って研究する研究者が集まっています。身体運動は、身体という物理的な物体を脳というコンピュータで動かす現象ですので、その研究をするには絶好の学科です。