自然災害科学・防災学

たった一つの津波岩から、過去の津波の規模と時期がわかる!


中村教博 先生

東北大学 理学研究科 地学専攻/高度教養教育・学生支援機構 学際融合教育推進センター

どんなことを研究していますか?

津波が発生すると、海岸の砂が沿岸部に打ち上げられて堆積します。これを津波堆積物と呼び、1980年代から東北大学の箕浦幸治名誉教授が精力的に研究されてきました。古代ギリシャのミノア文明と津波の関係も解明しています。最近では、2004年のスマトラ島沖地震による津波においても砂の堆積物が見つかり、多くの研究者が注目し始めてきていました。そんな折、東日本大震災があり、東北地域沿岸部の多くの場所で津波堆積物が堆積し、実際の映像による津波の動きと堆積物の分布を比較する研究が盛んに行われてきています。

岩石に記録された地磁気の情報を解析、いつ・どのように運ばれたか明らかに

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私は地磁気(地球の持つ磁気)を用いて、津波で海岸に打ち上げられた巨大な津波石が、いつ、どのように運ばれたかを、地球惑星電磁気学など物理学の立場で解明しようとしています。これは岩石が数100年から数1000年のあいだ地磁気にさらされると磁気を帯びることを利用します。岩石は、数百年に一度動くようなことがあると、その当時の地磁気の方向をベクトルとして記録していきます。驚くべきことに、そのベクトルを解析すると、津波石がいつ、どのように動いたかわかります。それと石の大きさから、津波の規模を推定できます。たった一つの津波石を分析するだけで、何年前にどのぐらいの規模の津波が襲ったかを見積もることができるのです。

このことを、その地域の減災に役立てたいと考えています。そのために、東北沿岸部はもちろんのこと、石垣島、ハワイ、トンガに足を運び、調査をしています。さらに、この地磁気を用いた年代推定の方法は、今後、活断層や土石流の活動時期の推定や、さらには石器といった考古学試料の年代推定にも役立ててゆくこともできます。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→学術研究・公務員(文科省・国土交通省(国土地理院・気象庁))・経営コンサルタント・地質技術者
  • ●主な職種は→研究職・総合職・営業職。具体的には、地球科学の学術研究推進(JAMSTEC、海外研究機関(フランス・中国)、土木研究所)、教育行政、地質技術者、企業経営コンサルの他、パイロットもいます。
分野はどう活かされる?

初期地球の地磁気形成と大気との学術研究、深海掘削船“ちきゅう”の運営、国土保全や建設材採掘に向けた地質調査業務、企業業績の改善など。

先生から、ひとこと

Curiosity, persistence & hard work. 好奇心をもって、粘り強く辛いことでもやり尽くす。苦労の連続の先に、あなただけが味わえる新しい景色が一瞬広がります。この一瞬の達成感を味わうために、人生のハードワークを続けよう。大学合格はこれから始まるさらなるハードワークのスタート地点であることを忘れないように。

私たちの研究室では、活断層の活動時期を地磁気から推定する研究、隕石を用いた原始惑星系円盤が持つ磁場の研究、津波石や土石流の規模と時期を復元する研究に取り組んでいます。一緒に挑戦しませんか。最近は地磁気の研究だけでなく、新しい数理科学教育の開発研究やビッグヒストリー教育の普及にも取り組んでいます。

先生の学部・学科はどんなとこ

東北大学理学部地球科学系は、自然災害に関して多くの研究者を有しています。数理的な地球科学に興味を持つ人、岩石破壊実験から地震を解明したい人、地震探査による地下構造から地震を解明したい人、数値計算と活断層調査を駆使して地震発生予測をしたい人、津波堆積物から津波の研究をしたい人、火山噴火ダイナミクスから噴火予知をしたい人、地震・火山・津波・断層に関する研究なら、ほとんどをカバーできる人材とカリキュラムを有しています。また、野外における自然観察をとても大切にしていて、そのための野外実習の訓練をします。理論や実験をする人も共に、野外実習を行います。この野外実習の経験は、とても大変ですが、みなさんの人生を豊かにしてくれます。

また地球科学系には、地球深部を研究する超高圧物性グループ、はやぶさ試料といった地球外物質の研究グループ、化石を用いた古環境変動を研究するグループ、微化石を研究するグループ、人文地理を研究するグループ、さらに生命の起源・アストロバイオロジーの研究グループまで有しています。自然災害学にこだわらず、少しでも宇宙や地球、生命に興味があれば、ぜひ東北大学理学部地球科学系をめざしてください!

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研究室のみなさん

先生の研究に挑戦しよう

岩石は地磁気を本当に記録するのだろうか。火山岩に方位磁針を近づけてその方位を記録し、その後、巻きコイルに火山岩を入れて高電流を流したあと、再度方位磁針を近づけてみよう。また、岩石が持つ微弱な磁力を手作りの無定位磁力計(インターネットで検索してみよう)で測定してみよう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

地磁気逆転X年

綱川秀夫

地磁気は太陽風のバリアとなって電波障害を食い止めている。地磁気がないとスマホもできない。そんな地磁気は、地球の歴史を紐解く上で重要だ。地磁気がなければ地球の大気は太陽風で剥ぎ取られ、現在の火星のように不毛な惑星になっていたかも知れない。地磁気を研究している大学の研究室を高校生が訪問し、率直な疑問を投げかける設定で書かれているため、とても読みやすい。本の主人公になったつもりで読んでみて、面白さを感じてほしい。 (岩波ジュニア新書)


プリゴジンの考えてきたこと

北原和夫

時間はなぜ未来に流れるのかを突き詰めた科学者プリゴジン。非平衡の研究でノーベル賞を受賞したプリゴジンについて、その研究内容と人となりについて、30年指導を受けてきた著者が描く。高校の科学の知識で読み切れる。 (岩波科学ライブラリー)


巨大津波 地層からの警告

後藤和久

地震や噴火、津波など、過去数万年にわたる自然災害の痕跡が地層から見えてくる。地層が教えてくれる歴史と今後への警鐘を分析しまとめたもの。古津波研究で世界をリードする若手研究者による著書。津波堆積物に関する入門書として。 (日本経済新聞出版社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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