薬を創るには、その標的となる病気を理解する必要があります。病気とは、本来体が持っている機能に様々な要因で異常が生じることですから、薬を創るためには体の持つ機能やそのメカニズムを正確に理解することがスタートになります。生物系薬学とは、この機能やメカニズムを明らかにし、創薬に結びつける学問です。
この生物系薬学の研究室として、我々は、細胞が作って周囲にばら撒く分泌因子に着目しています。分泌因子は、多くの細胞がまとまって一つの個体となる我々の体において、細胞と細胞の間のコミュニケーションのツールとして利用されています。数多く存在する分泌因子の中には、細胞間でどんな情報を伝えるために利用されているのか不明な「機能不明な分泌因子」もまだ多く残されています。我々は、この機能不明な分泌因子の役割を明らかにすることが、体の機能を理解する上で役立つものと考えています。
分泌因子研究を通じて、がんの新しい治療法の開発へ
現在我々は、いくつかの機能不明な分泌因子について、特に体内の異物排除に役立つ免疫やエネルギー代謝との関わりについて研究を進めています。例えば、現在研究中の分泌因子は、体の中で免疫反応を開始する細胞(樹状細胞など)から分泌され、自分自身の機能を抑制する働きがあることがわかってきました。
免疫機能は、感染した病原微生物の排除にも重要ですが、同じように体に発生してくるがん細胞の除去(がん免疫)にも重要であることがわかっています。現在、この分泌因子を持たない動物を人工的に作出すると、がんの成長が普通の動物に比べて抑えられる可能性を見出しています。したがって、我々の注目する分泌因子の機能を抑えることができれば、新しいがん治療法の開発に結びつくかもしれません。
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「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
一般的な傾向は?
●主な職種は→病院薬剤師、薬局薬剤師や製薬会社の医薬情報担当者など
分野はどう活かされる?
病院、薬局薬剤師として働く多くの卒業生は、研究により得た生物学的知識などを病気や薬物の理解に役立てています。製薬会社の研究員や公的機関の研究者に従事する卒業生も、やはり研究で得た知識、考え方を現場で活かしています。
神戸薬科大学は、薬剤師の育成とともに、「神研プロジェクト」として研究に力を入れようと取り組んでいます。その結果、高い薬剤師国家試験合格率を維持するとともに、神戸薬科大学では物理系、化学系、生物系、医療系など、様々な分野の研究で非常に高い評価を受けています。
薬剤師として臨床の現場で目の前の患者を助けるのも大切な取り組みですし、新しい薬を創って多くの患者様を助けるのも大事な試みです。コロナ禍の中で、医療における研究の重要性が理解されつつありますし、研究者という生き方を目指すことも悪くないかもしれません。
栄養状態が免疫に及ぼす影響は最近注目される研究領域だと思います。例えば、風邪を引いたときの食欲や嗜好の変化の傾向などは、学生でも調査できると思います。その変化は感染症に抵抗するために必要な体の仕組みである可能性が考えられます。その結果をもとに研究を進められれば、栄養と免疫の新たな関係が明らかにできるかもしれません。