生物多様性・分類

クシクラゲは最も原始的な多細胞動物なのか?~遺伝子レベルで進化の仕組みを調べる


半澤直人 先生

山形大学  (元 理学部)

どんなことを研究していますか?

最新のゲノム研究の結果、現生する動物の中で最も祖先的な多細胞動物は、有櫛動物だという仮説が提唱されました。有櫛動物とは、クラゲ的な動物を含むグループの中で、クシクラゲ類と呼ばれています。

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私はこの仮説を検証すべく、クシクラゲ類のゲノムの再編成や進化の仕組みを調べる研究を行っています。これに関連して、パラオ諸島の海水湖群に隔離されているクシクラゲと異なるグループに属する棘を持つ刺胞動物クラゲ類などの進化の仕組みを遺伝子レベルで調べています。また、かつて最上川水系周辺に存在した巨大古代湖で種分化してきたと考えられる、この地域固有の淡水魚類の進化の仕組みも遺伝子レベルで調べています。

クシクラゲは本当に地球上で生まれた最初の動物なのか。そこからどのように多細胞動物の進化が起こったか、それにはゲノムの95%を占める領域での動物の種間の比較解析を通してこそ、新しい進化のしくみの発見の可能性があると思っています。

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パラオ諸島海水湖における魚類調査

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→教育、試験研究、行政
  • ●主な職種は→大学・高校教員、研究員(国立研究法人 水産研究・教育機構)、博物館・水族館学芸員、国家公務員(農林水産省)、地方公務員
分野はどう活かされる?

自らが学び、研究してきた分野のことを、直接若い学生・生徒らの教育や、一般社会人の生涯教育などに活かしています。同様に、地方公務員として公設試験研究機関で生物資源の管理などに活かしています。

先生から、ひとこと

約38億年前に地球上に最初の生命が誕生して以来、様々な生物が進化し、また絶滅してきました。そして、現在では目に見える生物だけでも、軽く数百万種を越える種が地球上に生息すると考えられています。

「生物多様性・分類」分野では、このように多種多様な生物がダイナミックに進化して来た過程や、進化が起こった仕組みを、生物自身の様々な表現型の観察、分布や行動、生態の調査、そして近年では遺伝子の総体であるゲノムや表現型を決めている個々の遺伝子の分析を通して、総合的に考察します。したがって、昔のようにただ死んだ生物の標本を観察しているだけではなく、現代科学のあらゆる研究手法を用いて、そこに隠れている生物の進化の秘密を追究していく分野です。

先生の学部・学科はどんなとこ

当理学部生物学科は、フィールドワークが好きな生徒たちにはうってつけの学科です。海洋生物だけでなく、陸上ほ乳動物や、植物、昆虫など、様々な生物を研究する教員がそろっています。また、どのような生物を対象にする場合も、今やDNA分析や各種顕微鏡(電子顕微鏡、レーザー共焦点顕微鏡)による細胞の微細構造の観察は必須なので、このような研究に関連する設備も充実していて、必要に応じて使用することができます。

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臨海実習におけるプランクトン採集

先生の研究に挑戦しよう

異なる地域から同じ種と考えられる生物を採集してきて、形態的特徴を測定して詳しく比較し、また簡便な方法でDNAを抽出して、一部の遺伝子の塩基配列を検出して、比較してみましょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

海洋の生命史 生命は海でどう進化したか

西田睦:編

約38億年前、最初の生物は海で誕生したと考えられています。その後、様々な地球環境の変遷を経て海で生物は進化し、様々な海洋生物どうしの関係を保ちながら、生活しています。海洋生物はどのような仕組みで誕生したのか。執筆者の一人、山形大学の半澤直人先生は「海水湖における海洋生物の固有進化」を紹介。先生たちは、日本の真南にあるパラオ諸島の海水湖群に着目しました。なぜなら、海水湖群は「約15000年前に外海から分断された小さな海」と見なすことができ、そこに生息する生物はそれぞれの海水湖で独自の進化を遂げていると考えられるからです。そして生物の形態の観察やDNA分析をした結果、海水湖ごとに独自の進化が起こっていることを明らかにしました。本書からは、こうした新たな生命誕生のロマンに触れてほしいと思います。 (東海大学出版部)


NHKスペシャル 生命大躍進

NHKスペシャルで放送された科学番組のDVD。第1集は「そして"目"が生まれた」。約5億年前、短期間の間に、現在見られる動物が出揃い出し、祖先たちは精巧な目を持つようになりました。進化の学説で、「カンブリア大爆発」と呼ばれるこの時期の謎に迫っていきます。第2集「こうして"母の愛"が生まれた」、第3集「ついに"知性"が生まれた」の3回シリーズで、進化の大躍進物語を描いています。生物の進化に関する新しい発見についてわかります。 (NHK)


クラゲ類の生態学的研究

豊川雅哉、西川淳、三宅裕志:編

近年、地球規模の環境変動や人間の活動などにともなって、様々なクラゲ類の大発生と、それらによる大規模な海洋生態系の撹乱が起っています。本書は、日本のクラゲ類の研究者が一同に会して行われた研究シンポジウムの発表内容を、それぞれの研究者がまとめた本です。執筆者の一人、山形大学の半澤直人先生は「2000年から2009年にかけて毎年大発生していたエチゼンクラゲの発生源や個体の分散の謎」を、集団遺伝学的研究手法で明らかにしました。 (生物研究社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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