ウニやヒトデ、クモヒトデなどの棘皮動物を用いて、卵→胚→幼生→成体へと発生が進む中、どのように体軸が形成され、維持されていくか、幼生と成体との違いは何かといったことを明らかにしようと研究を進めています。棘皮動物は、我々脊椎動物と姉妹群をなすことから、棘皮動物でみられる現象を解明すると、脊椎動物の理解につながるかもしれません。ヒトデやクモヒトデはいうまでもなく、ウニの幼生も非常に高い再生能を持つことも注目のポイントの一つです。また、これらの研究から得られた基礎的な知見は、現代の様々な医療や技術に何らかのヒントを与える可能性を秘めています。
教科書にでてこない多様なウニの発生
高校で必ずウニの発生を学びますが、様々な種を比較すると、教科書とはかけ離れた特性が続々と出てきます。例えば、胞胚はつるつるの球状と考えがちですが、しわくちゃの状態を経るもの、幼生が成体原基を作るのは発生後期と記されていますが、もっと初期から作られるもの、幼生は餌を食べるものばかりではなく食べずに成体に変態するものなど、かなり多様です。その特徴が現れる機構やなぜこのような違いが生じるのかを、顕微手術や薬品操作を組み合わせて解析しています。これらの結果から、生物がどのように環境に適応したかを考察することで、生物の進化を追及できるでしょう。
一般的な傾向は?
- ●主な職種は→小・中・高等学校の教員、企業の研究員
分野はどう活かされる?
理科(高等学校では生物を中心とした理科)分野の教育に携わっています。また、部活動などの課外活動においても、生物分野の研究を中・高の生徒さんたちと行っています。さらに、研究に面白さを感じた卒業生の中には、企業での研究に携わっている人もいます。
進化生物学は、様々な生物がどのように進化してきたかを考える学問分野です。近年では、Eco-Evo-Devoといった、生態学的(Ecology)・進化学的(Evolution)・発生生物学的(Development)に、生物の進化を総合的に捉えようという流れがあります。なぜなら、「進化」は、タイムマシンがない限り、過去にさかのぼって、それぞれの生物に生じた現象を実際に目で確かめることができません。そのため、現存の生物が持つ特徴や、それらが見せる生命現象がどのような原因により生じているかを、網羅的に調べ、生物間で比較することから、進化の道筋をたどるといった研究方法をとります。我々ヒトも、一つの生物であり、そのルーツをたどるこの分野は非常にロマンがあふれています。
山口大学は、日本海・瀬戸海に面した非常に海洋環境に恵まれた山口県にあります。本大学には、微生物から植物、大型動物まで幅広く生物を用いた研究がなされ、多様な分野から生物進化を考える上で、刺激的な大学と言えます。
その中で、私の研究室は本大学内でも地元の海産動物を用いた進化多様性の研究を行っている唯一の研究室です。ウニ、ヒトデ、クモヒトデ、ナマコおよびウミユリといった棘皮動物を、地元の海で採集して研究室で飼育し、そして、その発生過程において顕微手術や薬剤処理、さらには分子生物学的手法を駆使して様々な特性を解析しています。私の所属している教育学部では、基本的に卒業研究のみで卒業する学生さんがほとんどですが、1年間で完結できるテーマを積み重ねていくことで、当該分野の専門誌に掲載されるレベルとなりえます。
また、多くの学生さんが教員を目指すことから、学校現場でも活用できる手法、例えば、顕微鏡観察法や写真撮影などから微細手術などまで、徹底的に身につけ、将来の生物学を支えるであろう子どもたちに生物進化の面白さを伝えられるよう指導しています。一方、大学院に進学したり、企業での研究職を目指したりする学生もいますので、どこに行っても通用する研究の姿勢が身につくよう指導をしています。
興味がわいたら~先生おすすめ本
理科好きな子に育つ ふしぎのお話365 見てみよう、やってみよう、さわってみよう 体験型読み聞かせブック
自然史学連合会:監修
身近な自然現象のトピックスが365日分。生物の多様性を幅広く知ることができ、自然への幅広い関心を高める第一歩としては、非常にとっつきやすい。子ども向けの本ではあるが、自分自身で実験したり、確かめることのできるポイントも記載されているため、これをきっかけに自身の関心を発展させることも可能だろう。例えばウニ類の裸殻の特徴に関する内容では、形態的特徴をとらえることで、種間およびグループ間の体制を考えることができ、そこから進化多様性を考えることが可能となる。 (誠文堂新光社)