原子力発電所の事故以来、改めて原子炉の材料強度が問われています。原子炉の寿命はその原子炉構造物の強度の劣化が大きくかかわっています。そのため、物質が放射線などでどのような強度変化が現れてくるかという研究が、昔からされています。近年ようやく原子レベルでその変化を詳しく捉えられるようになり、解明が進んでいます。
金属などの物質の内部は、原子が規則性を持って整然と並んでいます。しかし、強いエネルギーを持った電子や粒子にさらされると、それによって規則位置からの原子の弾き出しを生じます。一般的に原子力材料や宇宙などの放射線環境下では、この弾き出しによる物質の性質の変化が構造物の強度劣化や太陽電池の発電能力の低下などを引き起こします。これを照射効果と言います。実はこのような放射線に曝されると強度だけでなく様々な性質が変わることがわかってきています。例えば、磁石の性質、電気伝導、色、表面反応性(触媒)などです。
電子デバイスのような材料の機能性を制御する照射制御
私たちは近年、この照射効果の現象で起こる変化の過程を原子レベルで解析し、それを様々な物質への新しい特性制御に利用する研究を進めています。
例えば、電子デバイスのような材料の機能性コントロール法の一つとして照射制御を使うことを考えています。また、非常に小さなサイズの金属表面の特定領域だけを変化させることも可能です。実際、表面だけを硬くしたり、照射した微小なナノ領域だけ磁石にしたりすることもできるようになります。また、放射線は液体である水に当てると水分子が分解して化学反応を誘起できる液体に変化する照射効果ももたらします。
このような様々な照射効果を複合的に応用することで新しい機能性を持った磁石、導電性インク、触媒、紫外-赤外吸収透明ガラスなど様々な材料を開発し、それら機能性発現のメカニズムを解明することで新しいものづくりを進めています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→電気メーカー、自動車メーカー、鉄鋼金属製造業、化学素材メーカー
- ●主な職種は→研究開発
- ●業務の特徴は→金属や半導体の特性評価、研究開発
分野はどう活かされる?
ナノ科学、機能性材料開発、金属製造プロセス、特性加工などの基礎や、X線をはじめ陽電子という特殊な量子放射線などを用いた新しい評価技術の開発なども進めています。
私たちの身の回りは放射線に溢れています。この放射線を正しく理解して有効に利用することで様々な恩恵が受けられます。材料科学の分野では放射線照射はこれまで劣化ばかりが研究対象とされていましたが、私たちの研究では逆転の発想で新しい材料を創り出すことに成功しています。研究は知的好奇心と柔軟な発想がとても重要です。結果として得られる新しい発見に立ち会える充実感を味わって欲しいです。
私の研究室は大学院のみの研究室なので、学生は学内外の様々な分野から集まっています。私個人は工学部のマテリアル工学課程も兼任しているので、材料の分野で学部から私の研究を選択して、大学院に進学も可能です。また研究環境として大阪府立大学は、公立大学最大規模の大きな放射線などを扱う施設を保有しており、放射線に関連する装置や設備について、身近に見たり、学んだりすることができます。また近隣の大学として電車で1時間圏内に京都大学複合原子力研究所があり、学内で不可能な中性子やその他の加速器を用いた実験が、共同利用という形で利用でき、様々な実験研究が可能です。
興味がわいたら~先生おすすめ本
陽電子の世界
大槻義彦
原子レベルでの物質を研究するために利用される素粒子は、どのような理屈で利用されるのか。真空の泡とも考えられる「陽電子」という反物質の実態は何なのか。わかり易く、かつやや踏み込んだ理論も交えながら解説している。 (丸善出版)