2011年3月、福島第一原子力発電所で、原子炉の炉心が大きく損傷する事故が発生しました。このよう過酷な事故が起こった場合、炉心は数千℃にも達する高温の極限世界になります。燃料、スティール、冷却材などの炉心物質が蒸発、凝縮、溶融と固化などの変化をともないながら、固体・気体・液体の相が混合して流れる熱流動現象が生じます。この非常に複雑な多成分多相流の熱流動現象が事故の進展を大きく左右します。原子炉のふるまいやその影響を把握しておくことは、原子炉が有する安全の余裕度を評価するとともに、事故の発生を防止し、事故が起こった場合に、その影響を緩和する新しい安全技術を導入する上で重要です。
事故を起こした原子炉の複雑なふるまいを正確に予想
私は、安全性を向上した原子炉システムの開発のため、原子炉で起こる熱流動現象を研究しています。原子力発電所の過酷事故は、燃料や構造物が破損したり、溶融したりと、非常に複雑な過程をたどって進展します。この挙動をコンピュータを使ってシミュレーションする技術の開発を行っています。事故を起こした原子炉の挙動を、正確に予測することができるようになると、事故を早い段階で収束させ、放射性物質が環境に放出されないような対策を、設計の段階から効果的に取り入れることが可能になります。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→重工業、エネルギー(電力など)
- ●主な職種は→技術者、研究者
分野はどう活かされる?
「流体力学」、「輸送現象論」、「伝熱学」、「熱力学」、「計算力学」など研究で身につけた素養が、原子力工学や機械工学の分野で活躍するのに活かされています。
ネットから簡単に「答え」や「結果」が見つかる時代。効率的で便利な世の中になった一方で、油断をすると、筋道を立てて物事を考えることが疎かになりがちです。結果そのものを示すこともよりも、それを導き出す過程や方法を学ぶことが、理系を目指す若い人には大事だと思います。感情や周りの雰囲気に流されて物事を直感的に捉えて思考するのではなく、客観的な事実に基づいて、論理的に物事を考えることのできる理系オタクになってください。
大学院では、高性能原子炉や核融合炉等の魅力的な核エネルギーシステムの開発、ならびにエネルギー利用における諸問題、原子力と環境の関わり等について、原子炉物理やプラズマ理工学、熱流動工学、物質移動論、同位体科学、環境システム工学等の面から教育と研究を行っています。
学部学科では、多岐にわたる様々な要素が複雑に絡み合ったエネルギー・環境問題を解決するため、理学、工学、環境科学などの複数の学術分野の連携や融合によって生み出される学際的な専門性を身につけることができます。