反応工学・プロセスシステム

高性能な磁性ナノ粒子を低コストで合成~がんの温熱療法に役立てる


岩﨑智宏 先生

大阪府立大学 工学域 物質化学系学類 化学工学課程/工学研究科 物質・化学系専攻 化学工学分野

どんなことを研究していますか?

「反応工学・プロセスシステム」の分野は、物質を合成するための化学反応を、経済的で効率良く、環境にやさしい条件で行うために、反応装置の設計や最適化を行い、さらに、反応装置の前後の工程を含めた、プロセス全体を取り扱う学問分野です。

例えば、画期的な新しい難病治療薬が開発されたとしても、それを合成するのに莫大なコストがかかれば薬の価格が高騰し、患者の経済的負担が大きくなります。また、例え安く多量生産できても、省エネ・省資源や環境対策が実現できなければ、継続的に生産することが難しくなります。コストと、環境や資源への配慮は常に意識しなければいけません。

がん細胞を死滅させる発熱量を精密にコントロール

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近年環境にやさしい工業材料としてニーズが増えているものに、磁性酸化鉄のマグネタイトのナノ粒子があります。マグネタイトは以前から顔料、電子デバイス、工業用磁気トナーなどに利用されていました。最近では人体に無害であることから、医療分野での応用が国内外で精力的に行われています。核磁気共鳴画像法(MRI)では、体内に取り込む造影剤として実用化されているほか、がんの温熱療法への利用についても盛んに研究されています。これは、磁性ナノ粒子が発熱する現象を利用し、熱に弱いがん細胞を死滅させる治療法です。

私たちは、がんの温熱治療に利用できるように制御した高性能な磁性酸化鉄のナノ粒子を、安価な原料からエネルギー消費を抑えて簡単に合成できるプロセスの開発に取り組んでいます。マグネタイトのナノ粒子の磁気特性は、その粒子径や凝集状態によって変化するため、磁気温熱療法に適した磁性ナノ粒子の粒子径を明らかにするとともに、発熱量の制御を可能にしました。こうした研究により、がん治療法で課題となっている、患者の身体的・精神的・経済的負担を大幅に軽減できると考えています。

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遊星ボールミルという粉砕機を使って、ナノメートルサイズの超微粒子をメカノケミカル反応(機械的なエネルギーによって化学的な反応を生じさせること)で合成する実験の様子

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→化学、製薬、化粧品、環境
  • ●主な職種は→研究・開発
  • ●業務の特徴は→新製品の開発や生産プロセスの設計・最適化など
分野はどう活かされる?

新製品とその合成法の開発を、経済面・環境面も含め、プロセス全体を俯瞰しながら行っています。

先生から、ひとこと

化学プロセスは社会を支える重要な基盤技術であり、今後も技術革新に対するニーズが日本だけでなく世界中で増えることは間違いありませんが、まだわかっていないこともたくさんあります。みなさんの知恵と創造力で新しい技術を開発し、すばらしい未来を切り拓いてください。

先生の学部・学科はどんなとこ

化学反応は様々な化学プロセスで利用されており、その用途も電子材料やバイオなど、多岐にわたっています。私たちの化学工学課程では、省資源・省エネルギー・低環境負荷・ナノテクノロジーを共通のキーワードとして、反応メカニズムなどの基礎から、最適化や制御などの実用化まで、幅広く化学プロセスに関する最先端の研究に取り組んでいます。また、教員1名が一学年あたり2~3名の学生を担当する少人数教育が実現できており、各学生に対してきめ細かい教育と研究指導を行っています。

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がんの温熱治療(磁気ハイパーサーミア)用に合成した磁性ナノ粒子が、交流磁場で効果的に発熱(誘導加熱)するかを調べる実験の様子

先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】
・酸によるショ糖の加水分解速度の測定
・活性炭によるインク(色素)の吸着

興味がわいたら~先生おすすめ本

熱力学で理解する化学反応のしくみ―変化に潜む根本原理を知ろう

平山令明

本書は化学反応を熱力学、とくに自由エネルギーの観点からやさしく説明しており、化学反応を単にA+B→Cの変化と捉えるだけでなく、その進み方や原動力にも目を向けると、今までと違った化学の面白さが感じられると思います。また、高校生にとって熱力学はなじみが薄く、とっつきにくいものかと思いますが、化学に興味があれば本書を通じて熱力学に入りやすいかと思います。大学で熱力学を本格的に学ぶ前に本書で概要を把握しておくという意味でもおすすめです。 (ブルーバックス)


トコトンやさしい化粧品の本(第2版)

福井寛

本書は工業製品としての化粧品について、原料から製品に至るまで、様々な角度からわかりやすく説明しており、安全性や環境面に関する話題も扱っています。一つの化学製品を世の中に出すまでを理解する上で、化粧品は身近で非常にいい例であり、本書を通じ、製品の目的に応じて使用される原材料とその機能、メカニズムに基づく製品設計と製造法、考慮すべき安全性や環境負荷対策など、一連の流れがつかめるかと思います。日常的に化粧品をほとんど使わない人にとっても、科学的な興味を持って読める本です。ちなみに、この「トコトンやさしい」シリーズには他にもいろいろありますので、興味のあるテーマの本を探して読んでみてください。 (日刊工業新聞社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/総合科学技術・イノベーション会議の調査事業の一環としても、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。
各先生の所属など、掲載されている大学(学部・学科ほか)の名称は、2020年1月段階の調べによります。実際の進路選択等に際しては、各大学のHP等で改めてご確認ください。

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