環境動態解析

深部帯水層の微生物群集が生成するメタンによる発電システムを開発


木村浩之 先生

静岡大学 理学部 地球科学科/総合科学技術研究科 理学専攻/グリーン科学技術研究所

どんなことを研究していますか?

環境動態解析学という学問は、陸上、海洋、大気といった地球環境の物質循環、環境変動、生物現象を対象とします。主なテーマに温暖化に関する環境計測・モデルやオゾンホールに関係する極地研究もなどがあります。さらに近年、地球表層環境や地下圏に生息する環境微生物による物質循環も盛んに研究されるようになり重要なテーマの1つとなっています。その流れの中で、私は地下圏の炭素循環について研究してきました。

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西南日本の太平洋側の地域には“付加体”と呼ばれる厚い堆積層が広く分布しています。付加体は、海洋プレートが沈み込む際に、海底堆積物が大陸プレートの縁辺部に“付加”し、隆起してできた地形です。この付加体の深部帯水層に生息する微生物群集によって、堆積層中の有機化合物から大量のメタンが生成されていることがわかりました。私は、地球科学と微生物学を融合させた研究手法を用いて、付加体の地下圏に生息する微生物の生理生態学的特徴や、メタン生成メカニズムを明らかにしようとしています。

メタンや水素ガスの生成でエネルギー対策

地元自治体や総合設備会社、発電機メーカーと連携して、付加体の深部帯水層に由来するメタンを燃料としてコージェネレーション(ガスエンジン発電機)を稼働させて電気と熱を生産する、メタンガス発電システムの実用化を進めています。

また、付加体の地下水とそこに含まれる微生物群集を利用したメタン生成リアクターおよび水素ガス生成リアクターの開発にも取り組んでいます。これらのバイオリアクターでは、大深度掘削技術を使って付加体の深部帯水層から嫌気性の地下水を汲み上げ、そこに含まれる水素を発生する発酵細菌とメタンを生成する菌に、食品廃棄物や下水汚泥などの余剰有機物を添加することによって、水素ガスおよびメタンを生成します。本研究は、地産地消エネルギー生産、温暖化対策、災害時のインフラ供給、水素社会の創成に貢献すると期待されています。

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温泉施設が所有する大深度掘削井から湧出する地下温水(温泉水)と付随ガス(主にメタン)を採取している

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→研究、教育、行政(特に環境分野)、ゼネコン、コンサルタント、ガス、ITなど
  • ●主な職種は→研究開発、公務員、高校教員、設計など
分野はどう活かされる?

環境分野、エネルギー分野で活躍しています。

先生から、ひとこと

人間到処有青山 思い切って世界に飛び出しましょう!

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温泉用掘削井から湧出する付随ガス(主にメタン)を燃焼としてコージェネレーション(ガスエンジン-発電機)を稼働させ、熱と電気を生産している。分散型エネルギーとして、温泉宿泊施設にて有効利用している。

先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】
・微生物の嫌気培養
・新エネルギー開発
・災害対策

興味がわいたら~先生おすすめ本

深海生物学への招待

長沼毅

極限状況で生きる生物を追い求める、「科学界のインディ・ジョーンズ」こと広島大学の長沼毅先生の本。地球上のほとんどの生物は、植物による光合成、つまり太陽エネルギーを利用した生物生産に依存している。では、まったく太陽光の届かない深海や地下圏の生物は、どのようなエネルギーに依存して生きているのだろうか。本書は、海底熱水に含まれる硫化水素やメタンなどからエネルギーを生産する「化学合成バクテリア」や、それらのバクテリアを体内に共生させている「チューブワーム」など、驚くべき機能を持つ深海生物について解説。深海に挑んできた先人たちのドラマも生き生きと描いている。 (幻冬舎文庫)


現代語訳 学問のすすめ

福澤諭吉

福沢諭吉による「学問のすゝめ」の現代語訳。激動の明治を牽引した教育者であり啓蒙思想家であった諭吉の言葉は、時を経た今も、色あせることなく私たちに学問に関する非常に重要なことを伝えてくる。 理由抜きに高校生に読んでもらいたい。 (斎藤孝:訳/筑摩書房)


切抜き速報 科学と環境版

ニホン・ミック:編

全国の新聞に掲載された記事をまとめた月刊誌。科学と環境のジャンルの中から、さらにテーマに沿った記事を切り出して読むことができる。 (ニホン・ミック)


里山資本主義

藻谷浩介

里山にこそ日本の将来がある。休眠資産である里山に光を当て、自給自足の生活や再生可能エネルギーの活用、地域コミュニティの活性化などについて、先進的事例オーストリアをもとに解説する。日本の里山資本主義実践者たちも登場。 (NHK広島取材班/角川新書)


静岡の大規模自然災害の科学

静岡大学防災総合センター:編

南海トラフ巨大地震や富士山など火山噴火などの被害が心配される静岡では、防災教育が重視されている。静岡大学でも防災教育への意識が高く、それを担う静岡大学防災総合センターの本。地形学や地質学、津波工学の先生が、自然災害のメカニズムを解説する。 (岩田孝仁、北村晃寿、小山真人/静岡新聞社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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