海の中にも波があります。暖かい水と冷たい水の間に生じる波で、内部波と言います。内部波が崩れて上下の水が混合すると、深くて暗いところにあった栄養分を含む水が、光のある上の層に持ち上げられて植物プランクトンの増殖に使われます。このように、物理・化学・生物過程が絡み合って生態系は成り立っています。物理現象で言えば、内部波は複雑な挙動を示し、生物は多種多様で、栄養分を構成する化学物質と生物の関係も未知な部分が多くあります。その複雑に絡み合った糸を解きほぐすように、これらの相互関係を明らかにしていくことが、「環境動態解析」という学問です。
東シナ海や有明海の海水の動きを追う
私は、海の環境を対象とした研究を行っており、海の中の水の動きと、そこに分布する物質や生物との関係を明らかにしようとしています。その一環として、東シナ海を中心とする東アジア縁辺海の海水混合や循環に関する研究を進めてきました。海洋乱流の実測を中心とした研究を展開し、東アジア縁辺海だけでなく、有明海をはじめとする日本沿岸域の海洋環境研究にも取り組んできました。
海の中で水がどのように動き、物質がどのように輸送されるかを明らかにすることで、例えば、海は、その中の生物資源をどのくらい養えるのかを評価することができるようになり、具体的なデータに基づいた持続可能な、新しい漁業計画ができると期待されます。
(松野健先生は、20年3月に退職されました。現在はこの研究を遠藤貴洋先生が引き継いで実施されています)
分野はどう活かされる?
大学院生たちは、大学や研究機関の研究員、海洋計測器のメーカーなどの技術職に就いています。
海は一般的には生活圏から離れていて、関心が薄いかもしれませんが、最近は海面水温が上昇したことによって強い台風が頻繁に日本列島を襲うようになるなど、海が人間の生活に密接に関連していることが目に見えるようになってきています。これは一例ですが、海の中で何が起こっているか、わかっていないことがたくさんあります。私たちが生きている地球を構成する重要なパーツである海を理解するための科学を覗いてみませんか。
研究所なので、学部・学科はありませんが、関連分野としては理学部の地球惑星科学科があります。海洋だけでなく、地球科学を勉強する学科ですが、最近の地球温暖化など、海洋に関わる科学は人類の未来に深く関わる学問分野なので、社会で取り上げられる機会も増えており、今まで以上に一般への普及が期待される分野だと思います。
興味がわいたら~先生おすすめ本
続・海のトリビア
日本海洋学会ほか
海に関連する様々なトピックが、各見開き2ページで説明されている。子どもも読めるよう簡単に書かれているので、海に興味を持つ入り口として適しているが、内容を詳しく知るには簡単すぎるかも知れない。海に直接は関係がなさそうに思われる記述もあるが、なぜそれが海の本として書かれているかを考えるのも面白いだろう。 (シップ・アンド・オーシャン財団、海洋政策研究所、日本海洋学会:編/日本教育新聞社)