幾何学

究極の謎、無限次元空間の対称性に挑む


小島武夫先生

山形大学 工学部 数物学分野(理工学研究科)

どんなことを研究していますか?

「無限」とは、何かしら人を魅了します。しかし一方、無限次元空間というとなかなかイメージしづらいです。2次元、3次元空間は、中学・高校でも慣れ親しんできたと思います。耳学問の進んだ人は、「アインシュタインの相対性理論は4次元時空だ」などと反応するかもしれません。次元とは、空間の広がりを表す指標の一つで、その空間内の点が動ける自由度と考えると良いでしょう。

例えば3次元では、点はxyzの3つの方向に自由に動けます。4次元時空では、時間という次元でも動けます。同様に無限次元空間は、点の動ける方向が無限に増えると理解できます。

この考え方に懐疑的な人は、無限次元は一般化のための一般化にすぎず、机上の空論に過ぎないと感じるかもしれません。でも実は、無限次元空間は便利で役に立つものなのです。

無次元空間の対称性は素粒子のふるまいを理解する手がかりにもなる

解析学基礎の分野の中で、私は無限次元空間の対称性(以下、無限の対称性と略記)に取り組んでいます。「可積分系」と呼ばれる分野です。無限の対称性を明らかにすると、その一つの応用として、物理学の模型の厳密解というものが作れます。厳密解とは、近似をしない誤魔化しのまったくない解のことです。無限の対称性は素粒子のふるまいを理解する手がかりも与えてくれます。大統一理論・超弦理論の理解へと我々を導いてくれる羅針盤です。究極的に我々は、超弦理論も含む数学におけるすべての理論の大統一を夢見ています。

そんな中で、私が研究に貢献できるものは、個々の具体的な無限の対称性の自由場構成(無限個の微分を用いて対称性を作る)です。無限の対称性の自由場構成は、厳密解の計算を可能にする大変強力な手法です。

プラハでの国際会議。世界的権威のV.G.カッツ先生(マサチューセッツ工科大学)と。
プラハでの国際会議。世界的権威のV.G.カッツ先生(マサチューセッツ工科大学)と。
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な職種は→システムエンジニア、教員、公務員(事務)

分野はどう活かされる?

培った粘り強い思考力は、幅広い職種で役立ちます。

先生の学部・学科はどんなとこ

山形大学工学部数物学分野では、かたくるしくない研究をそれぞれの教員が自由にやっています。山形大学工学部の数学・物理の基礎教育の特色の一つに習熟度別クラス編成があります。これは入試の多様化に対応するために導入されたものです。教育は組織的に、研究は各教員の責任ある自由のもとに行われています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

「可積分系」は比較的早く研究の最先端に辿り着ける分野だと思います。

先生の研究に挑戦しよう!

厳密解がもとめられる新たな物理学の模型を提案してください。イジング模型、8頂点模型など、厳密解が求められる模型を「可解模型」といいます。それぞれの可解模型の定義はここでは省略しますが、模型の定義そのものは中学生でも十分理解できる単純明快なものです。若者の柔軟な思考で、専門家には思いもよらぬ新たな可解模型を発見・提案してください。

興味がわいたら~先生おすすめ本

数学の大統一に挑む

エドワード・フレンケル 青木薫:訳(文藝春秋)

 この分野「可積分系」という分野の研究の雰囲気に触れるには、世界的数学者であるエドワード・フレンケルの自叙伝である本書を手にとってもらうのがよいと思います。ユダヤ人を父として旧ソ連邦に生まれたフレンケルが、数学者になれる可能性はほとんどありませんでした。モスクワ大学の入試では全問正解したにもかかわらず、ユダヤ人の血筋ゆえ、不合格になったそうです。しかしながらフレンケルは諦めませんでした。

現在はアメリカ在住の世界的数学者であり、ラングランズ・プログラムの探求により数学の大統一に挑んでいます。フレンケルがいかに数学を学び、いかに問題をみつけ、いかに研究をすすめたかについてが、生々しく描かれています。現代数学の様々な概念も、式をほとんど用いずに平易に解説されており、数学そのものも楽しめる本です。この本に近いテーマを研究している日本の研究者はピンからキリまで何人もいます。その中にはフィールズ賞クラスの研究者も含まれています。


部分と全体

W.K.ハイゼンベルク 山崎和夫:訳(みすず書房)

量子力学の創始者ハイゼンベルグの自叙伝。ドイツの理論物理学者ハイゼンベルグは、「位置と運動量を同時に決められない」という有名な不確定性原理を発見し、波動関数を導いたシュレーディンガーともに量子力学の基礎を築きました。アインシュタインは物理現象が確率でしか決められないという量子力学を嫌い、「神はサイコロを振らない」という有名な言葉を残し、量子力学と決別したのです。こうした20世紀初頭の物理学の巨星たち、ボーア、アインシュタインらとの対話によって20世紀の偉大な科学が開花していく様に圧倒されます。現代物理学を知るものによる現代のプラトンの対話篇と言えるでしょう。


数学をつくった人びと

E.T.ベル 田中勇、銀林浩:訳(早川書房)

数学界を華々しく彩った古今の代表的数学者たちの生涯が描かれています。微積分発明の裏でのニュートンとそのライバルの先取権争い。ドイツの数学の王、ガウスの登場。貧困に苦しんだノルウエーの天才数学者アーベルや、決闘で若くして死んだ天才ガロア。19世紀末になると、数学界は、ポアンカレやヒルベルトという数理科学の天才や、異才カントールの無限集合論が登場します。数学は固定化されたものではなく、今この瞬間にも新たに生みだされていることを感じさせてくれます。1巻から3巻まで。


神の数式

(NHK)

2013年NHKスペシャル。4回シリーズ。NHKオンデマンドでも視聴可能。アインシュタインの有名な数式「E=mc2」はとてもシンプルで、しかもでたらめで複雑な自然の中から見出された普遍的な法則です。このようにいわば“神の数式”の探求に挑んだ天才たちの苦悩と創造のドラマ。ヒッグス粒子の発見から超弦理論(超ひも理論)まで最新宇宙論に迫った映像はDVD化もされています。物理学者は何をめざしているのか、究極の神の数式=物理学の大統一理論とは何なのかを、気楽に学べます。

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