ナノ構造物理

今のスパコンでは解けない問題を解く 量子コンピュータの研究


伊藤公平先生

慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科(理工学研究科 基礎理工学専攻)

どんなことを研究していますか?

今のスーパーコンピュータをもってしても絶対に解けないという問題がたくさんあります。「巡回セールスマン問題」といった情報科学分野で有名な組み合わせ最適化の問題などがその例です。「セールスマンがいくつかの都市を1度ずつすべて訪問して出発点に戻ってくる時に、移動距離が最小になる経路を求めよ」。一見簡単に解けそうです。確かに都市数が少ない時は、すべての組み合わせを調べることができます。最短経路もわかります。しかし都市数が多くなると、計算上、この組み合わせの総数は爆発的に増加し、137億年という地球誕生に相当する時間をかけても、スパコンですべてを調べることは事実上不可能になります。

今、世界一の量子コンピュータを開発しているのはアメリカのIBM社とGoogle社です。米IBM研究所は日進月歩で量子コンピュータの性能を上げています。その最新機種、すなわち世界一の量子コンピュータに慶應理工キャンパスからクラウドアクセスして、「今のスパコンの延長技術では解けない問題」を「解けるようにするアルゴリズム・ソフトウェア開発」に取り組んでいます。

世界一の量子コンピュータといっても、装置としての性能は、人間に例えると幼稚園児レベル。でもすごいのが毎日の成長で、これからは飛び級を重ねながら小中高校生になっていきます。そうなると成長する体(装置)にどのような教育を施すかが鍵を握ります。それがアルゴリズム・ソフトウェア開発で、親としての教育に相当します。それに取り組んでいるのが私たちの研究です。

現在のセンサーで絶対に検知できない超微小な変化を感知、測定する

量子センサーの開発も進めています。ダイヤモンドの中のたった一個の電子を量子センサーとして、現在のセンサーでは絶対に検知できない超微小な温度・磁場・電場・方向などの変化を測定できるようにします。この技術は絶対に盗聴されない量子通信にもつながります。

未来の電子機器と思われていた、こうした量子情報機器は、急速に発展しています。さらには量子情報機器と最先端AIの融合も大切で、これにはGoogle社と一緒に取り組んでいます。量子センサーでは様々な医療応用が注目されています。量子通信を用いた個人情報を守る動きも盛んになってきました。

この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→電子産業、国際企業、大学教員、コンサルティング企業

●主な職種は→半導体エンジニア、システム開発者、海外転勤者、教育研究者、コンサルタント

●業務の特徴は→技術力に加えて、国際的感覚と語学力が求められる職種

先生の学部・学科はどんなとこ

独立自尊精神に基づく自由な雰囲気と学生の積極性

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先生からひとこと

量子情報処理と人工知能の融合で一緒に世界を変えよう!

先生の研究に挑戦しよう!

【テーマ例】

・Pythonを用いたプログラミング実習

・機械学習プロジェクト

・物理に関する様々な実験 

興味がわいたら~先生おすすめ本

量子コンピュータ 超並列計算のからくり

竹内繁樹(講談社ブルーバックス)

現在のスーパーコンピュータを圧倒する、量子コンピュータ。研究の最先端にいる専門家である著者により、従来のコンピュータのしくみと対比しながら、その初歩と面白さ、そして応用技術がわかりやすくまとめられている。


ようこそ量子 量子コンピュータはなぜ注目されているのか

根本香絵、池谷瑠絵(丸善ライブラリー)

量子力学に興味を持ち始めた初学者向けの本。極力数式を使わずに、学び始めの人との「Q&A」方式で、疑問に答える形で解説が進むために、理解がしやすい。後半から少し専門的に掘り下げた話になっていくため、初歩から応用までの大まかな全体像を理解するのに適した本。


量子もつれとは何か 「不確定性原理」と複数の量子を扱う量子力学

古澤明(講談社ブルーバックス)

「2つの量子は離れていてもつながっている」とは、どのようなことなのか。不確定性原理と量子光学の実験を通して、ユニークかつわかりやすく解説する。量子コンピュータの初歩とその面白さも感じられるだろう。