教育心理学

子どもの「自己像」はどのようにつくられるのか


小松孝至先生

大阪教育大学 教育学部 学校教育教員養成課程 小中教育専攻 学校教育コース

どんなことを研究していますか?

自分がどんな姿をしているか、どんな性格か、どんなことが得意で何が苦手か、これまでどんな経験をしているかなど、私たちは「自分」について多くのことを知っています。「自分はどんな人か」、言い換えれば「自己像」は、子どものころから日常的な経験と周囲とのやりとりの中で明らかになり、積み上げられていくものです。

私は、このような子どもの「自分づくり」の過程を、親子の会話などことばによる自己表現の分析を通して研究しています。最近は、家庭での会話から対象を広げ、小学校で子どもが自己表現をする日記・作文の指導、スピーチ活動や授業でのやりとりなども研究の対象としています。

「自分づくり」は学びや人間関係の基礎

進路指導や就職活動で「自己分析」が求められるように、自分を知ることは社会に出ていく過程でも重要になります。日常生活の中で子どもたちが「自分づくり」をする過程を理解しながら、周囲の他者(家族・先生・友人)とのやりとりを意味づけていくことが私の研究の目標です。

2018年の3月から9月まで約7か月、デンマークのオールボー大学に、研究のため長期出張を行いました(科学研究費助成事業・国際共同研究加速基金による)。オールボー大学の研究者と定期的に議論を重ねることで、これまで研究してきた親子の会話や子どもの日記の研究を理論的に発展させた英文のモノグラフを書き、出版しました。(「オープンアクセス」で刊行されているので、出版元のSpringer社や、Amazon、Googleなどのサイトで全文に無料アクセス可。タイトルで検索。)
2018年の3月から9月まで約7か月、デンマークのオールボー大学に、研究のため長期出張を行いました(科学研究費助成事業・国際共同研究加速基金による)。オールボー大学の研究者と定期的に議論を重ねることで、これまで研究してきた親子の会話や子どもの日記の研究を理論的に発展させた英文のモノグラフを書き、出版しました。(「オープンアクセス」で刊行されているので、出版元のSpringer社や、Amazon、Googleなどのサイトで全文に無料アクセス可。タイトルで検索。)
授業の資料に出てくる用語は、そのままではその意味(子どもの発達や学びとのつながり)がわからないことが少なくありません。自分たちが「子ども」だったころの経験や、教育実習などで子どもと接した経験と関連づけながら考えていきます。
授業の資料に出てくる用語は、そのままではその意味(子どもの発達や学びとのつながり)がわからないことが少なくありません。自分たちが「子ども」だったころの経験や、教育実習などで子どもと接した経験と関連づけながら考えていきます。
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な職種は→小学校教員

分野はどう活かされる?

多くの卒業生が゙学校で子どもたちの教育に携わっています。特に小学校の先生になることが多いです。子どもの心や行動、発達を理解することは、教員としてとても重要です。私のゼミでは、この点に関して深く学び、また、実際に子どもたちとのやりとりをもとに考える経験もしてから現場に出ていくことになります。

企業で、また、公務員として働くことを選択した卒業生もいます。心理学の学びは、このような職場ですぐに役立つことばかりではありません。しかし、心理学のものの見方や、人間の多様性を理解できていることは、他人の行動や考え方を理解し、適切なコミュニケーションを取りながら業務を進める上で重要であると思います。

先生の学部・学科はどんなとこ

大阪教育大学(教育学部・学校教育教員養成課程)は、教員(学校の先生)の養成を主な目的にしています。様々な子どもたちに接し、それぞれに合った形で授業や指導ができるためには、授業で教える内容や教え方だけでなく、子どもの発達や様々な関係(家族や友人間の関係)のありかたを適切に理解することも必要になります。「学校教育コース」には、大きく分けて3つの分野(専門領域)があり、その1つとして心理学に関する様々な学びを深めることができます。いずれの分野でも、小人数のていねいな指導がなされています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

私が研究している親子の会話や子どもの日記のように、心理学(教育心理学)の研究は、私たちが普段していることを対象にすることが少なくありません。しかし、普段していることだからこそ、あえて分析・説明したり、その意味を考えたりすることが難しいところもあります。そうした、「日常」のことがらを、ていねいに見直して理解してみたいときには、心理学にかかわる学部・学科を選択肢に入れてみてください。

先生の研究に挑戦しよう!

子どもの日常の様々な経験ややりとりから、その発達を考えることができます。例えば、赤ちゃんや幼い子どもたちの様子を注意深く見て、どんなことに興味を持つのか、周囲の家族とどんなやりとりをしているのかをまとめてみましょう。長期にわたって見ていくと、その様子が変化する育ちの過程が見えるかもしれません。

小学校の時のテストや日記を大切に保管しているという人は、その分析はどうでしょうか。心理学では、小学生の時期の子どもたちの考え方や理解には、高校生の皆さんとは異なる特徴があるという議論もあります。テストの間違い(たとえば計算の間違い)を見つけたら、どんなことがわかっていなかったのかを具体的に考えてみてください。

どうやってその間違いを直してあげたらよいか、小学生にわかるような説明を考えてみると、高校生にとっては当たり前の「計算をする」という手続きを子どもたちが身につける過程の一端を理解できるかもしれません。また、小学校・中学校で行われている「全国学力・学習状況調査」の過去の問題や詳しい調査結果が、インターネットで公開されています(国立教育政策研究所)。子どもたちにとってどんな問題が難しいのかを調べることで、子どもたちの考え方や理解の特徴を考えることができます。

日記を持っている人は、自分が何を書いていたのか、自分らしい見方や考え方がどんなところに表れているかを考えてみると、子どもの「ものの見方」、そしてあなたの「自己像」がどのようにつくられてきたかを理解することができるでしょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

「しがらみ」を科学する 高校生からの社会心理学入門

山岸俊男(ちくまプリマー新書)

「カウンセリング」や「心のケア」のイメージが強い心理学だが、学問としては実験・調査・観察などを通して人間や社会などを研究し、理解していくものである。この本では、心と行動をめぐる研究の結果がわかりやすく紹介されている。また、「社会心理学入門」ではあるが、子どもの発達や学校教育に関わる内容、たとえば「いじめ」や、乳児期の子育てに関することもくわしく取り上げられている。


高校生のための心理学講座 こころの不思議を解き明かそう

日本心理学会:監 内田伸子、板倉昭二:編(誠信書房)

心理学という言葉は日常的に触れる機会が少なくないが、それは大学の学問としての心理学とは異なる部分も多く、大学に入学してから「心理学がこんなものとは思わなかった」というミスマッチが起こることも少なくない。

本書では、子どもの発達をはじめとした様々な内容について、実験・調査などを通して理解されてきた「学問としての心理学」に触れることができる。また、後半には、高校生の研究チームが大学院生とともに心理学の研究に取り組んだ成果も紹介されている。