遺伝育種科学

植物の環境適応

植物の根に個性はあるのか? ストレスに負けない作物を目指して


山内卓樹先生

名古屋大学 生物機能開発利用研究センター(農学部 資源生物科学科/生命農学研究科 植物生産科学専攻)

出会いの一冊

植物は<知性>をもっている 20の感覚で思考する生命システム

ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ヴィオラ(NHK出版)

植物は動物に対して劣るという潜在的なイメージを逆手に取り、植物の多彩な能力をわかり易く解説している一冊です。

植物には動物の「脳」に対応する器官がないという問題提起から、ダーウィンのThe 'Root-Brain' Hypothesis('根=脳'仮説)を参考に、植物の根が水・酸素・養分を求めて土の中を探検することを話題にした章は、私の研究とも深く関連しています。

最新の本ではないですが、植物間のコミュニケーションや植物ー微生物共生など、最新の植物研究の動向にもつながる内容が幅広く網羅されています。

こんな研究で世界を変えよう!

植物の根に個性はあるのか? ストレスに負けない作物を目指して

植物は生まれた場所から逃げられない

動物は心地よい場所に移動して暮らせますが、植物は動けません。しかし、砂漠のサボテンから水中の水草まで、それぞれが個性を発揮して豊かな生態系を構成しています。

私は、植物が生まれて”しまった”環境に適切に応じるしくみを知るために研究しています。そして、その先には環境要因によるストレスに負けない作物の開発を見据えています。

植物の根は水と酸素を運ぶ役割を果たす

根は足にも例えられますが、口や食道でもあります。植物の食べ物や飲み物は、土の中の無機イオンや水です。根はそれらを”道管”という通路を介して葉に運び、植物の成長に必要不可欠な光合成や代謝を支えています。

動物は酸素を血液で運びますが、植物に血管はありません。降雨が続くと土が水で満たされて、深く張った根の先端の酸素が不足します。このとき、根の一部の細胞が崩壊して、”通気組織”という空隙ができることで、酸素の通り道になります。

植物の適応を知り、作物の改良に利用する

ある日、輪切りにしたいくつかの植物の根を眺めていたところ、それぞれの個性に気が付きました。そこで、様々な身近な雑草を調べてみた結果、乾いた土に育つ種では”道管”ができる中心部が大きく、湿った土に育つ種では”通気組織”ができる部分が大きいことがわかりました。つまり、乾燥した場所では水を、湿った場所では酸素を効率的に運ぶことのできる植物種が有利なのです。

現在は、農業に重要な作物を多く含むイネ科植物の根の内側の個性を決めるしくみ(遺伝子)を解明し、作物の収量や環境ストレス耐性の改良につなげることを目指しています。

イネ科雑草の例。左は乾いた土に育つホソムギ、右は湿った土に育つヨシ。下はそれぞれの植物の根を輪切りにした切片。オレンジの矢尻は道管、青い米印は通気組織。ホソムギは道管を含む中心部が大きく、ヨシは通気組織を含む周囲の部分が顕著に大きいことがわかります。
イネ科雑草の例。左は乾いた土に育つホソムギ、右は湿った土に育つヨシ。下はそれぞれの植物の根を輪切りにした切片。オレンジの矢尻は道管、青い米印は通気組織。ホソムギは道管を含む中心部が大きく、ヨシは通気組織を含む周囲の部分が顕著に大きいことがわかります。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

高校時代には地球温暖化で近々に世界が滅びるかのような情報が発信されており、漠然と食料や環境の問題を解決できそうなバイオテクノロジーに興味をもちました。

そこで、学部と大学院ではイネを相手に遺伝子を改変するバイオテクノロジーの研究をしました。その過程で、そもそも動けない植物がどうやって生きているのか? というしくみに興味を持ち、現在に至ります。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「植物の耐湿性に貢献する根の通気組織を対象とした多角的研究」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
名古屋大学大学院生命農学研究科附属東郷フィールドの水田において様々なイネの品種や系統を栽培して研究を展開しています。
名古屋大学大学院生命農学研究科附属東郷フィールドの水田において様々なイネの品種や系統を栽培して研究を展開しています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

名古屋大学農学部資源生物科学科では「生物のしくみを知り、食の未来を切り拓く」という理念のもと、食料生産や環境保全につながる農学分野の幅広い研究が展開されています。私一人で紹介するのは簡単ではありませんので、是非当学科のHPをご覧ください。
https://shigen.agr.nagoya-u.ac.jp/outline/

出張先での調査の様子。イネを野外で栽培して様々な調査をする際には、グループみんなで協力して作業をおこないます。
出張先での調査の様子。イネを野外で栽培して様々な調査をする際には、グループみんなで協力して作業をおこないます。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

分子生物学の軌跡 パイオニアたちのひらめきの瞬間

野島博(化学同人)

20世紀中頃に誕生してから急速に発展した分子生物学ですが、研究者のちょっとしたひらめきが大きな分岐点になったことが読み易くまとめられた一冊です。今や植物科学は分子生物学とは切り離せません。教科書にもなりますので、生物に纏わる学問を志す人にお勧めです。


ローマ人の物語

塩野七生(新潮文庫)

寡頭制の時代から帝政ローマ建国、その繁栄と衰退までを描いた歴史小説です。歴史の経緯はさておき、十人十色の人物がそれぞれの個性を生かして活躍する様には、学びと励ましがあります。理想像を描く参考としてお勧めです。長編のため、つまみ読みでもOKです。


これがニーチェだ

永井均(講談社現代新書)

遊ぶ子供は自己肯定感に溢れていますが、その肯定感は成長の過程で失われていきます。そこで、意志によって自己肯定しようとするニーチェの思考プロセスが丁寧に解説されています。到達点は極めて当たり前のことなのですが、考え過ぎに終止符を打ちたい人にお勧めです。

一問一答

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