腫瘍生物学

細胞の老化

がんの原因・老化細胞を退治しよう


高橋暁子先生

公益財団法人がん研究会 がん研究所 細胞老化プロジェクト

出会いの一冊

沈黙の春

レイチェル・カーソン、訳:青樹簗一(新潮文庫)

日常の研究室で起こった些細な現象に着目し、つきつめたことが環境ホルモンの発見へとつながり、やがてそれが世界を巻き込む社会現象へと発展していったことがわかる印象的な本でした。

世界を変える研究はこれ!

がんの原因・老化細胞を退治しよう

病気の原因は「細胞の老化」

私の研究の専門分野は「老化」です。ヒトは誰でも年をとります。そして年をとると病気になる確率があがります。

なぜヒトは年をとり、そして病気になるのでしょうか。実は、私たちの体を形作る細胞も、生まれてから一緒に年をとっていて、この「細胞の老化」が病気の原因となることがだんだんとわかってきました。

私は今、東京の「がん研究所」で研究をしています。がんも、年をとるとかかる病気の一つであり、今では日本人の二人に一人はがんになり、三人に一人はがんで亡くなってしまいます。

何故、年をとるとがんになってしまうのか。その疑問を解決するために毎日研究を行っています。

老化細胞の分泌物質ががん発症につながる

さて、老化した細胞がどのようにがんを引き起こすのか、という謎に迫っていくと、どうやら老化した細胞では様々な物質を細胞の外へ分泌しているということがわかってきました。

つまり、老化細胞がポイポイと細胞の外に出しているものが、周りの細胞や全身に悪い影響を及ぼして、がんをはじめとするさまざまな病気につながるということです。

中でも、老化細胞では「細胞外微粒子」とよばれる小さな膜小胞を使って、細胞の中の物質を宅配便のように他の細胞に届けたり、ごみ箱のように危険なものを捨てる機能が亢進していることがわかっています。

そこで私は今、老化細胞が分泌する細胞外微粒子の研究をしています。

さらに、老化細胞が体に悪い物を分泌するのだとしたら、そうした老化細胞を選んで殺してしまうとか、悪い物を出さないようにすれば、がんなどの病気にならないと考えられます。

実際にそのような薬の開発が世界中で進められていて、私は今、どのようにして老化した細胞を退治しようかと考えて、毎日わくわくしながら研究をしています。

スペイン学会:スペインで開催された国際細胞老化学会のディナーにて

先生のフィールド[微粒子] 平成29年度採択課題ではこんな研究テーマも動いている!
きっかけ

◆テーマとこう出会った

大学へ進学する時は、自分が研究者になるなんて想像もしていませんでした。では、なぜ私が研究者になったかというと、単純な話で、実際に実験をしてみたらとても楽しかったからです。

大学院生の時に「細胞が老化する」という現象に興味を持ち、いつか老化の研究をしてみたいと思っていたところ、たまたま学会で専門の先生の発表を聞きました。そしてその先生にすぐにメールを出して弟子入りを志願したところ、幸運にも研究室へ参加することが許されて、それ以来細胞老化の研究を行っています。学生時代のほんの少しの勇気で、今の研究テーマに出会えた幸運に、今でも感謝しています。

先生の分野を学ぶには
高橋暁子先生 の研究・研究室を見てみよう
ラボメンバー:がん研究所細胞老化プロジェクトのメンバー
中高生におススメ

生物と無生物のあいだ

福岡伸一(講談社現代新書)

生命に興味を持つきっかけになりました。


アウトブレイク

ロバート・タイン、訳:加藤洋子(新潮文庫)

現在のコロナウイルスの感染拡大の恐ろしさを想像させる物語で、ウイルスとの闘いが描かれています。映画化されている作品でもあるので娯楽作品としても鑑賞できます。


若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間

ジョシュ・ミッテルドルフ 、 ドリオン・セーガン 、訳: 矢口 誠(集英社インターナショナル)

最新の老化に関連した書籍。生物種による寿命の違いや進化との関りなど、老化についての興味深い考察が展開していて、読み応えのある一冊です。


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