紛争地域シリアで、希望を持ち日本語を学習する人たち
紛争の渦中でも日本語を学ぶ学習者がいる
現在、世界の137の地域で日本語教育が行われています。この中には、決して数は多くはありませんが、現在も紛争状況にある国々も含まれています。
中でもシリアには、紛争渦中においても、日本語を学び続ける学習者が存在しています。また、シリアを離れ、難民として外国で生活しながら、日本語を学び続ける学習者もいます。
シリアの未来を作るための武器
私は、そんな学習者に2011年から聞き取り調査を行ってきました。以下に、学習者が日本語で語ったインタビュー内容の一部を、そのまま示します。
シリアに残り、独学で日本語を学び続けるAさんは、「日本語の学ぶは、どんな大変な時でも、私が生きているため、やっぱり希望です。戦争が終わりになった時、私がシリアの未来を作ります、他の人にお願いしたくない。その時、日本語は武器になるはずです」と述べました。
また、スウェーデンに難民として渡り、独学で日本語を学ぶBさんは、「私自身を理解してもらうことの一つ、日本語ができる私ということ見せたい。ただの難民ではなく」と語りました。
日本語を学ぶことが生きる希望につながる
これらのインタビューから、彼/彼女らが、日本語を生きるための希望、未来を作るための武器、自身のアイデンティティの一部として捉えていると考えることができます。
私は、彼/彼女らがどのような環境で日本語を学んでいるのか、なぜこのような認識を持つようになったのかを考え、人がことばを学ぶことの意味を探求しています。


日本語教育の国際社会における平和への貢献の可能性が指摘されながらも、具体的な議論、実践の提言が十分になされてはきませんでした。本研究は、シリア出身の日本語学習者の声を拾い上げ、彼/彼女らのアイデンティティ形成過程および日本語学習環境を明らかにし、日本語教育学が貢献できる内容を提言するものです。語りが形成される背景となる個人的な経験と社会的文脈との関係を深く考察していきます。個々の語りの詳細な記述から、ボトムアップ的に日本語教育としての支援方略を構築することを目指しています。
「シリア出身の日本語学習者の学習環境とアイデンティティ形成過程の動態について」
細川英雄
言語文化教育研究所
1980年代後半より外国人留学生のための日本事情に取り組み、90年代後半からの総合活動型日本語教育創始を経て、2000年代よりことばの市民による言語教育実践研究を提案、社会的行為主体としての言語表現主体構想を発信している。細川の提唱することばの市民による言語教育実践研究は、母語、第二言語、外国語を超えて、日本国内のみならず、世界中の言語教育実践に寄与するものであると考えます。
Marcella Mariotti
Ca' Foscari University of Venice Department of Asian and North African Studies
critical/transformative language pedagogy, e-learning, social sustainability and placement を中心に研究をしています。従来の言語教育を批判的に捉え直し、広く社会に貢献する言語教育のあり方を模索している点、で注目しています。
広瀬和佳子
神田外語大学 外国語学部 国際コミュニケーション学科
日本語で読み書きする力を高めるために必要な学習環境について研究している。日本語母語話者と非母語話者が協働で学び、相互理解を深める場づくりを考えている。言語教育の目的を単に語彙や文法を習得することだけに置いていない点に共感しています。協働での学びを通して、どのような相互理解を深める場を構築できるのか、そのような学習環境はいかなるものなのか、注目しています。

「活動型」日本語クラスの実践―教える・教わる関係からの解放
マルチェッラ・マリオッティ、市嶋典子:著(スリーエーネットワーク)
ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学にはイタリア随一の日本専攻があります。日本語と日本学を学んでいる学生たちは、およそ2000人にものぼります。市嶋は、同大学で、日本語ゼロビギナーの学生を対象に、全16回の活動を行いました。活動内容としては、自分の好きなテーマを選び、そのテーマについて一人の人とじっくり対話をした上で、対話相手と自分の考え方の関係について考えていくというものです。本書は、ヴェネツィアで初めて日本語を学びはじめた学生15人が日本語を紡ぎ出していくプロセスが生き生きと描かれています。言語習得のための言語学習ではなく、人が生きるためのことばの活動の意味とはいかなるものかを示す一冊となっています。
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Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? イタリアのヴェネツィア。2016年5月から2017年3月まで、ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学に客員研究員として在籍し、ヨーロッパにおける移民や難民の問題を考えることができました。また、そこで、生涯の友と出会えました。 |
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Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は? 『シリアの花嫁』:この映画は、イスラエルに占領されて以来、シリア側と分断状態にあるゴラン高原の小さな村を舞台に、政治に翻弄される花嫁と、その家族の運命を描いたものです。日本にも少ないながらもシリア難民はいます。また、世界各地で日本語を学び続けるシリア出身者もいます。この映画をきっかけに、シリアの問題に少しでも興味を持ってもらえたらと思います。 |
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Q3.研究以外で楽しいことは? 石川県の食材を使った料理。石川県では、米、魚、肉、野菜、果物、どれをとってもおいしいものが手に入ります。時間がある時に、これらの食材を使って料理をすることが楽しみの一つです。 |




