情報が行動を変える。技術で社会をデザインする
すでにセンサと行動認識技術は身近なところに広がっている
皆さんが毎日使っているiPhoneやApple Watch、AirPods。実はこの中に、たくさんのセンサが詰まっているって知っていますか? 歩数や睡眠時間を測っているのは知っているかもしれませんが、それだけじゃないのです。騒音レベルを測って聴覚を守るように促したり、衝突を検知して自動でSOSを発信したり、頭の動きや歩き方のパターンまで認識しています。加速度センサ、ジャイロセンサ、気圧センサ、心拍センサなど、小さなデバイスの中に様々なセンサが入っていて、皆さんの行動を静かに見守っているのです。人間行動認識と言われる研究分野では、こうしたセンサの開発や活用について研究しています。
アプリが薬になる時代がやってきた
では、こうして認識した行動データで何ができるのでしょうか。実は、行動を変える技術として既に医療の現場に進出しています。SaMD(Software as a Medical Device:サムディー)と呼ばれるもので、訳すと医療機器となるソフトウェアです。最近では、DTx(Digital Therapeutics:デジタルセラピューティクス)と呼ばれるアプリによる治療も始まっており、2022年から日本でも禁煙や高血圧といった生活習慣病に対するアプリ薬が登場しています。つまり、薬局に行くと飲み薬じゃなくてアプリが処方される、そんな時代になっています。私もゲームを使ってプレイヤーをより健康にしていくという共同研究を製薬会社と行っていました。
あなたの位置情報が、街をつくる
スマホが認識しているのは、皆さんの体の動きだけじゃありません。皆さんのスマートフォンの位置情報は、携帯キャリアや広告会社が把握していて、データとして販売されています。もちろん個人情報は削除されているので安心してください。私たちは、この位置データを使った観光動態分析を行っています。観光政策には多額の予算が投じられるので、施策の効果を定量的に測りたいという要望があるのです。また、道路計画や都市計画にもこのGPSによる行動データが活用されています。人々がどこをどう移動しているかを知ることで、より快適で効率的な街をデザインできるのです。
情報が人を動かす、その力の正体
ここまで見てきたように、情報技術は人の行動を認識し、変える力を持っています。テレビで紹介されたお店が混雑したり、インフルエンサーの投稿で商品が売り切れたりする光景、見たことありますよね。少し前の新型コロナウイルス感染拡大の際には、トイレットペーパーの買い占め騒動が起きました。これは間違った情報に基づいて多くの人が行動を決定してしまった例です。つまり、情報を制御することは人間の行動を制御することとも言えるのです。
情報にも「栄養バランス」が必要です
この強力な情報の力をどう使うべきでしょうか。皆さんはネットニュースやSNSで様々な情報を摂取していますよね。その中にはフェイクニュースや世論を扇動するような過激なニュースも含まれています。食事に栄養バランスや体に悪い食べ物という概念があるように、情報についてもあまりに偏ったものだけを見ていると陰謀論にハマってしまったり、自分の考えが極端に偏ったりします。情報には行動を変える力が備わりつつある中で、いかに悪い情報から身を守っていくかも重要な研究課題となっています。
いろんな学問を組み合わせて、社会を変える
この研究分野の面白さは、その学際性にあります。行動認識の研究をしたい人は、センサ技術を扱う電気電子工学と情報学を組み合わせます。行動変容の研究をしたい人は、心理学と情報学を融合させます。さらに社会学、都市工学、医学などとも協働して、様々な社会問題に立ち向かっていきます。情報技術を使って人類が幸せに暮らせる社会を実現する、それが私たちの研究室の目標です。
◆テーマとこう出会った
きっかけは、『Ingress』や『Pokemon Go』といった位置ゲームが流行り始め、仮想空間のアイテムを求めて人間が歩き回る姿を見たからです。このエネルギーを、地域振興や観光、健康増進に応用できると感じました。
もう1つのきっかけは、Apple Watch 2から搭載されたアクティビティリマインダ機能です。これは、時計が持ち主に対して、起立!、瞑想!と命令する機能です。持ち主の健康状態をセンサで観測して、薬のような働きをしてくれるわけです。
機械が人間より得意なことは、常時監視できること、膨大な情報を保持・整理できることです。今後は、機械が人間の健康を支えていくんだなと思いました。
◆大学院時代に
先輩とプチベンチャー起業をしたことも、今の研究につながっています。プログラミングができればアプリを作れて、アプリを売ればお金に変わるということを体験しました。
同じ頃、iPhoneが発売され、たくさんのアプリ長者が誕生しました。お金以上に魅了だったのが、個人として有名になれることで、これからは個の時代だなと思い、大きな会社に就職するのを辞めました。
◆出身高校は?
久留米大学附設高校
「情報ネットワーク」が 学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)
「13.IT・AI」の「49.通信、ネットワーク/IoT、セキュリティ系」
原隆浩
大阪大学 工学部 電子情報工学科/情報科学研究科 マルチメディア工学専攻
【モバイルデータに関する研究全般】
ものすごい数の論文を書いています。これだけの研究をコンスタントに遂行できる能力を身につけたい。
大越匡
慶應義塾大学 政策・メディア研究科
【プッシュ通知】
人間が情報に気づきやすいタイミングを解明しています。Yahooと組んで数十万人規模の実験を実施し、プッシュ通知の有効性を明らかにした点は誰にも真似できないと思います。
松田裕貴
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域
【参加型センシング】
みんなのスマホを使った都市センシングをしています。モバイルアプリの実装力、実験の遂行能力が素晴らしいです。外国の研究室と連携して、海外で観光実験をするという難易度の高い試みも成功させています。
◆新しい生活様式の実現に向け、時差通勤・通学を促すためバス停混雑度情報可視化システムの提供開始!(九州大学HP)
混雑度可視化アプリitoconは、バス停の混雑度をリアルタイムに可視化して、時差出勤、時差通学という行動変容を起こすものです。
工学部・電気情報工学科と大学院のシステム情報科学府は、電気系と情報系が一つになった組織です。IoTを学ぶ場合、センサ、通信、データ処理と、様々な領域の知識が必要になってきます。センサの開発や回路の設計といった電気系の知識と、機械学習や通信プロトコルやセキュリティといった情報系の知識の両方を学ぶことができる点が特色です。
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Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 医学部 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ドイツ。1年住んでいて、とても気に入りました。日本に近い雰囲気です。 |
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Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は? 『アバター』、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』 |
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Q4.熱中したゲームは? 『ぷよぷよ』。研究室内で競い合ってました。 |
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Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 広告代理店。全国の新聞と雑誌を読むという仕事です。 |
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Q6.研究以外で楽しいことは? 料理と畑 |







