究極の有機固体「COF」で革新的な機能材料を創ろう
有機材料はデザインしやすいが短所もあった
私たちの生活は様々な材料に支えられています。インターネットを基盤とした情報技術も、電気や燃料などのエネルギーの生産供給技術も、それぞれに機能をデザインされた材料が支えています。
この機能デザインとしては、周期表の元素を組み合わせる無機材料のアプローチも重要です。一方、炭化水素の分子骨格を基本とする「有機材料」は、無限の分子構造が可能であること、目的に応じて「官能基」という機能発現部位を組み込めることから、機能デザインの自由度はずっと高くなります。ちなみに生体分子も官能基の集まりです。
しかし、これまでの有機固体材料は、分子同士が弱い力で集まった「分子性固体や高分子材料」がほぼ全てで、これらでは分子を固体にまとめ上げる力が比較的弱いため、熱や溶媒で溶けやすい、壊れやすい、稠密なので材料の内部が使えない(表面積が少なく官能基を活用させにくい)などの制限がありました。
ユニークな有機材料プラットフォーム、COFとの出会い
私は数年前、有機固体では究極ともいえる「共有結合性有機骨格(COF)」というジャンルの材料系に出会いました。これは、構造の部品となる分子を、共有結合という高い安定性と堅さをもつ結合で合体させてゆき、ジャングルジムのように周期的で安定性の高い固体に組み上げてゆくものです。なお、最も堅い共有結合の典型としては、ダイヤモンドなどがあります.
ジャングルジムは「棒」とその接続部から成っていますね。この「棒」同士を、もし糊でつないでジャングルジムを造ったとしたら、これはすぐに壊れてしまいますね。雨が降ったら濡れて崩壊します(従来の有機固体材料)。
一方、この「棒」同士を溶接によって接続したら、人が乗っても大丈夫なジャングルジムができますね。この「溶接」が共有結合であり、ジャングルジムがCOFです。
広い応用可能性:バッテリー、電極、太陽電池にも
COFはその周期性のある骨格構造に由来して、ジャングルジムのように、中には0.5~5ナノメートル(nm。1 nmは10のマイナス9乗メートル。DNAの直径は約2 nm)程度の“スキマ”があります。
ジャングルジムの「棒」に官能基をつけておけば、内部の“スキマ”にお客さん(ゲスト)の分子を入れて、そのゲストに一気に官能基を作用させるといったことも可能です。
また、中にイオンを入れて動かせば今までにないバッテリーや電極が作れたり、電荷を動かせば新しい太陽電池やトランジスタを作ったりすることも可能でしょう。また、医学への応用にも可能性を有していると考えています。
手で触れられる大きさの材料にしたい
私の研究では、目的に応じて構造をデザインし、官能基を選び、分子からボトムアップで新材料を創る楽しさ、その未知の物性を測って応用を開拓する楽しさ、また、内部の“スキマ”に目的に応じてゲストを埋め込んで「ホスト-ゲスト系」と呼ばれる複合材料を創り、今までなかった機能材料を創出する楽しさがあります。
私は機械工学を出発点としていますので、この材料系を手で触れられる大きさにまでもってゆくこと、具体的には、mm~mのスケールの世界にもってゆき、その特性を明らかにしながら、従来の材料では実現し得なかった革新的な応用を創出することを目指しています。
開拓途上の広大な領域
応用としては、現在はエネルギー貯蔵や熱制御などへの展開に取り組んでいます。現在このアプローチから研究を行っている人は少なく、これは今後数十年かけて開拓するような広大な領域であり、このテーマに取り組める幸運に感謝しているところです。
→先生のフィールド[熱制御] 平成30年度採択課題ではこんな研究テーマも動いている!ポリマー(樹脂)、セラミック、液晶、ナノカーボンといった材料のジャンルが世の中の様々な場面で役立っているように、新しい材料のジャンルの出現と発展は技術革新を生み出し、社会と産業の発展につながる可能性があります。この研究は、そのような観点から目標達成への貢献が行えると考えています。
◆先生が心がけていることは?
世の中に目を向けること。未来の世代を想うこと。専門観念にとらわれないこと。
◆テーマとこう出会った
世界には多くの論文誌がありますが、私は、何誌かについて、最新号が出たらメールで内容の目次を受け取るように登録しており、世界の研究動向の把握に努めています。そのような中、数年前にCOFという新ジャンルの材料系を知り、従来の材料系にはない長所の多さとユニークさに気づき、様々な応用の実現に有望と考えました。
「熱工学」が 学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)
「14.ロボット・自動車・機械」の「56.機械工学(設計、エンジン、材料、流体等)」
「有機・ハイブリッド材料」が 学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)
「16.材料」の「62.有機・複合材料(有機EL、繊維強化プラスチック等)」
「エネルギー関連化学」が 学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)
「2.エネルギー・資源」の「5.新エネルギー技術(燃料電池、ワイヤレス電力伝送等)」
賢く生きるより辛抱強いバカになれ
稲盛和夫、山中伸弥(朝日文庫)
将来理系の職を考えている人には、若いうちに読んでおくことをお勧めする本です。大きな功績を残した著者二人の対談で、彼らが行ったこと、生き方、考え方などから、人生の指針となる多くのことを学び取れると思います。
特に、「正しいかどうか」に基づく判断基準と行動原理は、若い皆さんには身につけていただきたいところです。例えば、終章にある、「高橋君、喜ぶな。たぶんこれは何かの間違いだ」と言える人であることは、きわめて大事です。私も長く研究の世界にいますが、今の研究の世界で、一体、これを言える人がどれだけいるのだろうかと思います。
すなわち、少なくない研究者は根底において栄誉欲で動かされているために、“ポジティブな結果”に対する批判精神や社会への責任感が薄弱です。そのため、学生などが持ってきた結果に一緒になって興奮して舞い上がってしまう(その結果、主観的な肯定表現が多く、再現性も十分に確かめずにいい加減な結果を公表する)ような研究指導者も少なくないことは嘆かわしいことです。
未来の世界を支えてゆく皆さんには、小さな自我の満足のためではなく、様々な境遇にある人々が住む社会に対する責任のために判断・行動をする人になっていただければと願います。
呻吟語
呂坤(講談社学術文庫)
中国の明の時代の人が書いた本で、日本でもこれまで度々出版されています。大塩平八郎や勝海舟も読んでいたことが知られています。
この本は元々著者自身の修養のために自省と自戒の言葉を集めた本であり、高い普遍性を持ち、心を養うために有益な言葉を多く含む本です。普通に「学ぶ」ことなく生きていれば流されるであろう人間の傾向に戒めを与え、広い意味での禍いを避けるための知恵が学べます。
「学術というものは、単に知識を集積すればよいのではなく、心にかえりみて恥じることがなく、志に一点の邪念もないのが第一の肝要事である」、「思うに才能は誠から出るものである。才能が誠から出なければ、才能とはみなされない。誠であれば自然に才能が生まれてくる」、「才能と学問は、それを有するのは難しいことではないが、それを制御するのは難しいことである。君子が才学を尊重するのは、一身の徳性を成就するためであって、己れの長所をみせびらかすためではない。それによって世を救うためであって、人に誇るためではない」などの言葉は、学ぶことの本質を表した言葉だと思います。
Q1.大学時代の部活・サークルは? テニスサークル |