第2回 ウコンから心不全治療薬のタネが。製剤化し治験へ!
みなさんはウコンをご存知ですか。ウコンは、植物由来の香辛料で、カレーの原料でもよく知られています。最近では二日酔いに効くなど、健康食品から錠剤まで様々なものが市販されていますので、興味のある方も多いでしょう。
でも私たちはウコンへの興味というよりは、その中に含まれている成分を科学的に研究したいと考えています。言い換えるとウコンを科学(サイエンス)の視点で見ると、薬効を持つ有用物質(薬のタネ)が見えてくるということです。ウコンの成分にはクルクミンという化合物が含まれます。クルクミンそのものは古くから知られていましたが、私たちは、クルクミンが新しい心不全治療薬になる可能性を秘めていることを多くの共同研究を通じて発見しました。一緒に研究したのは、京都医療センターの長谷川浩二先生、静岡県立大学の森本達也先生、そして㈱セラバリューズ社の方々などとです。その開発研究を話しましょう。
心不全はご承知のように、高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症、あるいは喫煙などいろいろな要因で起きて、末期になるとそれが原因で亡くなるという重い病態です。心不全を抑制するために、どのように薬効のある化合物を見出していくかが、科学研究の醍醐味になります。
その薬効ある化合物を探す方法とは、スクリーニング研究という方法です。スクリーニングとは、主に化学や生物学などの知識と技術を用いて、多くの化合物や天然資源をふるいにかけ、薬効あるものをきっちり取り出す技術のことです。それによって新しい薬品のタネを探索・発見し、化学的かつ生物学的に探求・解析していきます。これを心不全になったラットに活用し、それによって、私たちは、クルクミンが、心筋肥大や心不全を抑制するメカニズムを明らかにしたのです。
ただし、クルクミンには、水に溶けにくいという問題点がありました。水に溶けにくいと、薬として体の中に行き渡りにくいという問題を生じます。そこで私たちは薬として使いやすくするために、ナノ微粒子クルクミン(高吸収型クルクミン)を作りました。ほとんど目に見えないくらいに細かい微粒子です。それを用いると、クルクミンの体内動態が飛躍的に良くなったのです。この心不全治療薬は現在、すでに臨床治験第2相の段階に入っています。
さらに、ごく最近、私たちは、クルクミンをもとにして、このナノ微粒子クルクミンの効き目をはるかに超える薬のタネの開発に成功し、臨床治験に向けて奮闘中です。