第3回 鉄は何度もリサイクルされるが、足りなくなると貧血
ミネラルは微量でも私たちが生きていくうえで欠かせません。そこでミネラルの生理機能を見てみましょう。
最初に多量ミネラルの働きを見ると、Ca(カルシウム)は不足すると骨粗しょう症を起こします。これはみなさんよくご存知ですね。P(リン)はDNAを、S(イオウ)は必須アミノ酸を、Cl(塩素)は体全体の浸透圧バランスを保つ働きをします。K(カリウム)、Na(ナトリウム)は細胞内外のイオンバランスに必要です。Mg(マグネシウム)はエネルギー代謝を助ける働きをすると、今注目を集めている元素の1つです。
次に微量ミネラルの生理機能を見てみましょう。鉄は赤血球のヘモグロビンの65%を作ります。欠乏すると貧血を起こしやすくなります。日本人の場合は、鉄と聞くと貧血を思い浮かべますが、欧米人では鉄過剰が問題になります。特に白人は遺伝的に鉄過剰になるヘモクロマトーシスという病気が起こりやすくなっています。ヘモクロマトーシスは肝機能などが破綻する重篤な疾患であるため、欧米では鉄の研究が盛んです。
鉄の体内サイクルはとても不思議な働きをします。みなさんは赤血球の寿命をご存知ですか。赤血球はだいたい120日で働けなくなってしまい、マクロファージが食べてしまいます。赤血球は分解され、鉄はもう一回新しい赤血球のために再利用される。このようにぐるぐると鉄は再利用され続け、足りなくなった鉄分は食物摂取で補うというしくみです。
Cu(銅)の欠乏は、貧血やメンケス症候群という髪の毛が縮れてしまう病気を起こします。メンケス症候群は男性しかかからない、銅の吸収力低下による遺伝性の疾患です。銅過剰の場合、遺伝性のウイルソン病の原因になります。この病気は、神経障害や重度の肝障害を起こしてしまいます。
Zn(亜鉛)は体内に2gくらい存在しています。みなさんあまりご存知ないと思いますが、実は、亜鉛はインシュリンの貯蔵・分泌に大事です。インシュリンに結合する亜鉛が不足すると血糖値の調節が上手くいかず、糖尿病になるリスクが高くなることもあります。
亜鉛は成長・発育に不可欠な微量元素として知られます。ヒトの場合、亜鉛欠乏症の具体例が初めて発見されたのは1961年。イランで実際は20歳前後であるにもかかわらず、10歳程度にしか見えない、著しい成長の遅延を示したイラン人男性の症例が報告されました。亜鉛は母乳中の必須ミネラルで、これが不足すると赤ちゃんの成長を阻害します。亜鉛は、ヒトの成長に非常に重要ということがわかります。