第4回 金属ミネラルは細胞に侵入しにくい ~侵入のカラクリを追う
これまでの伝統的なミネラルの研究法は、食物からの摂取と健康との関係を調べるというものでした。しかし最近では、もっと本質的なメカニズムの解明を目指した新しいミネラル研究が始まっています。それがミネラルはどうやって吸収制御されるかという研究です。その一端を紹介しましょう。
ミネラルを体内に吸収させるためには、細胞膜を通過しなければなりません。ところが鉄とか亜鉛など金属ミネラルイオンは、そのままでは通過できないため、膜に穴を開けてイオンを通過させる膜輸送のためのタンパク質が必要です。これをトランスポーターと言います。
私たちの主に研究している亜鉛では、ZIP4というトランスポーターが必要ということがわかっています。食物から亜鉛を取り込むと、腸管上皮細胞の膜のZIP4を通って、亜鉛は体内に吸収されるというしくみです。
鉄や銅の体内への吸収の場合、もうちょっと複雑な制御システムを使います。鉄の場合、三価の陽イオンと二価の陽イオンという2つのイオンが存在しますので、三価を二価に戻し、トランスポーターを介して細胞膜を通過させ、体内で三価に戻すという手続きで、鉄を人体に吸収しています。銅の場合、二価陽イオンと一価陽イオンの間で同様の手続きで、体内に吸収されます。このように最近、微量金属ミネラルの吸収制御機構が明らかになってきました。
こうしたことがわかってくると、最も効率の良い、最適の吸収の仕方が理解できるようになります。そのことはなぜ大事なのでしょう。つい最近、国際的学術誌『ネーチャー』で、大気中のCO2濃度の増加によって穀物が受ける影響について発表がありました。
大気中のCO2の量が増加すると、穀物中の鉄とか亜鉛などの含有量が減るということがわかったのです。それは昔から経験的に言われていたことですが、はじめて科学的に証明されました。CO2の増加により、小麦、米、サヤエンドウ、大豆、トウモロコシなど栽培された様々な穀物のミネラル量が減ることがわかりました。
ミネラルの吸収制御のしくみを理解し、体内吸収をいかに最適化するかということは、今後の大きな課題です。私たちはミネラル研究で人々の健康増進に貢献したいと思っています。
おわり
<前回を読む>
第3回 鉄は何度もリサイクルされるが、足りなくなると貧血
栄養素の通になる ―食品成分最新ガイド
上西一弘(女子栄養大学出版部)
カルシウム、ビタミンC、たんぱく質、コレステロール…。厚生労働省策定「日本人の食事摂取基準」でとりあげられている栄養素を、専門家による解説と、楽しく読みやすいネタ、楽しいイラストでガイド。体内での働きや吸収率、多く含む食品など、栄養士のみならず、一般の方にもわかりやすく、活用できる食品成分ハンドブック。
ミネラルの働きと人間の健康 ―糖尿病、認知症、骨粗しょう症を防ぐ
渡辺和彦(農山漁村文化協会)
作物や食べ物に含まれているケイ素、ホウ素、マグネシウム、カリウムなどミネラルが減ってきており、作物を不健康にしているだけでなく、糖尿病、痴呆症、骨祖しょう症、メタボなど生活習慣病の原因になっているという。ミネラル不足がいかに怖いかわかる。
トコトンやさしいミネラルの本
谷腰欣司(日刊工業新聞社)
イラストをふんだんに使い、化学式はできるだけ避け、また難解な用語には易しい説明を加え、一般の方々にもミネラルの性質を筆者流にわかりやく説明する。
身体に必要なミネラルの基礎知識 ―鉄・亜鉛・マンガン・モリブデン・バナジウムなど、病気の予防にもなり原因にもなる金属の話
野口哲典(サイエンス・アイ新書)
ミネラルが、健康維持や病気予防などにどれだけ重要な役割を担っているのかを解説。カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルトなどが身体にどんなに大事かがわかる。