第2回 水の起源 ~微惑星が大量の水をもたらした
なぜ地球上には水があるのか。水の起源について考えてみましょう。
それは、惑星がどうやってできたか、に関係しています(図1)。太陽から近いと温度が高いので、宇宙空間ではH2Oは水蒸気として存在し、惑星に取り込まれません。一方、遠い場所では氷となるので、岩石や金属の塵と一緒に惑星の一部となります。その境目をスノーラインと言います。スノーラインより外側にある惑星は凍っているのです。太陽と地球間の平均距離を1AUとすると、スノーラインは太陽からおよそ2.7AUの位置にあります。惑星形成が行われていた頃、太陽系には岩石でできた微惑星がたくさんありました。微惑星の中でスノーラインの内側にあるものは乾燥していて、一方、スノーラインの向こう側のものは、氷に覆われていた、つまり水を持っていたと考えられます。
太陽系の惑星形成初期には、地球に水はありませんでした。それが、木星が形成されると、その重力の影響で状況が全く変わりました。木星の重力攪乱のせいで、氷に覆われた微惑星が隕石となって地球に降り注ぐようになったのです。こうして太陽から1AUぐらいの場所に、水を持った惑星が形成されました。これが地球です。
シミュレーションでわかったのは、今ある海水の30~70倍の水が地球にもたらされたということです。そこで次に、地球に運ばれてきた大量の水はどうなったのかを考えなければならなくなりました。
惑星形成が行われていた頃、火星サイズの小惑星が地球に衝突する出来事がありました。これをジャイアント・インパクトといいます。2004年にサウスウエスト研究所のキャヌプ博士が行ったシミュレーションによると、ジャイアント・インパクトの後には地球の温度が上昇し5,000~1万Kになっていたようです。これは、地球全体を溶かしてしまうほどの高温でした。もし、完全に溶けた状態の地球に、水が運ばれてきたらどうなるでしょうか。
マグマの海と原始の大気を図にしました(図2)。マグマの海の中には溶けた金属鉄が含まれていました。この金属鉄が地球の中心に落ち込んでいき、金属の核(コア)を形成しました。
ジャイアント・インパクトによって、水がどのように分配されたのか。水の運命を考えてみましょう。原始大気とマグマの海に、水はおよそ1対100の割合で分配されます。つまり、ほとんどの水がマグマの海に分配され、地球表面の原始大気に留まる水はほんのわずかです。ここで強調しておきたいのが、圧力がかかると、金属鉄が非常に水素を好むという性質です。金属鉄と水が存在すると、水は分解して水素と酸素になり、水素は金属鉄と結合して、水素化鉄(FeH)を形成します。水(水素)は、マグマと金属鉄におよそ1対20の割合で分配されます。
つまり、原始大気とマグマの海と金属の核とで、水の分配係数は1対100対2,000。つまり、化学反応が進む時間が十分あれば、地球に運ばれてきた水のほとんどが、水素の形で金属の核に分配されるのです。それほど金属鉄は水素を好むのです。
次第に地球が冷えてくると、マグマの海の表面が固まると、原始大気も一気に冷え、大気中の水蒸気が液体になって降り注ぎ海洋を形成したのです。こうして岩石の上に海洋が形成されました。もともとマグマの海には水が入っていて、液体状の核には多くの水素が含まれていたのですから、今でもマントルや金属核には水や水素が含まれていると考えられます。