第1回 生命を誕生させた、地球の小さい海
地球上には海があります。ほとんどの人が、このことを当たり前だと思っているかもしれませんが、改めてその理由を考えてみましょう。
知っての通り、地球は水の惑星です。太陽系の惑星の中で唯一、海のある惑星です。ただ、海水の質量は地球の質量の0.023%と、海の量はとても少ないのです。たったこれだけの水ですが、地球表面の70%ほどを覆っています。ですから、地球は青く見えるのです。一方で、海の深さは3kmほどしかありません。地球の直径が6,400kmですから、海がいかに浅いかがわかります。
地球表面には陸地が存在しますが、もし今より少しでも水が増えたら、陸地はどんどん狭くなります。海の水を今の2倍にすると陸地のほとんどが水の下になってしまいます。このように、陸があるかないかは、海水量のほんの少しの差で決まっていることなのです。このことは、地球にとっては非常に重要なことでした。陸地と海が共存したことで、地球上には非常に多様な環境が生まれたからです。この環境によって、地球上に生命が誕生し多様に進化し得たのです。地球上に水がなければ、生命はあり得ません。もし、液体の水がなかったとしたら、化学反応は非常にゆっくりとしか進まないので、生命は生まれなかったと考えられているからです。
一方、陸地が全くなかったとしたらどうでしょうか。2013年に、東京工業大学の丸山茂徳先生たちがこの議論を取り上げました。丸山先生は、初期の地球に陸地があったからこそ、生命が生まれたと主張しています。陸地の岩石が風化し、リンのような生命にとって必須の元素が供給されて、生命が生まれたというのです。乾いた場所と湿った場所が存在したことも、生命誕生にとって有利と考えられているのです。
ハーバード大学のサセロフ先生は、「地球は良くあるタイプの惑星ではない」と言っています。太陽系外の惑星について、その質量と密度を調べてみたところ、水を持つスーパーアースがたくさんあることがわかっています。スーパーアースとは地球より若干大きい惑星のことです。惑星には、水の量が0%のものから100%のものまで様々あると考えられます。つまり、完全に乾いた惑星もあれば、陸地ができないほど水の豊富な惑星もあるのです。こうしてみると、地球は典型的な惑星だとは言えないのがわかります。
できたての地球――生命誕生の条件
廣瀬敬(岩波科学ライブラリー)
地球が出来て間もない頃、と言ってもいつかよくわからないのですが、地球上に生命が誕生しました。それが必然だったのか、または偶然だったのか、地球は生命誕生にどう関わっているのか、一緒に考える一冊です。
生命と地球の歴史
丸山茂徳、磯崎行雄(岩波新書)
巨大隕石の落下が相つぎ、大気、核、マントル、海洋がつくられていった初期地球。中央海嶺上で熱水から栄養をもらって誕生した生命。地球と生命の誕生がよくわかる。磯崎先生は東京大学で約2.5億年前の地球史上最大規模の生物大量絶滅を研究、丸山先生はプルームテクトニクスを提唱した東京工業大学特命教授。