第5回 ホームランを打つには(3)
ピッチャーの球種vs.バッターの反射の戦い
今度はピッチャーの側から見てみます。打者は外角低めかな、ストレートが来るかな、フルスイングをしよう、などいろいろ考えているわけですから、ピッチャーは、いかに打者にこの処理を困難にさせるかが重要になります。手っ取り早いのが、打者が速いスイングを行うのと同じように、こちらも速いボールを投げればいいのです。
さらには、球種を増やすことが重要。他に、コースを投げ分ける、クセを隠すなどといったことをピッチャーがやってくるので、野球というスポーツはピッチャーが断然有利になります。
さて、球種を増やすことが重要と言いましたが、それを裏付ける昔の研究があります。僕が右手を挙げたら、みなさんは首を上げて上を向いてください。できるだけ早くです。はい、いいですね! 今度は、右手を挙げたら首は上、左手を挙げたら首は下を向いてください。いきますよ。やっぱり皆さんずれますよね。さきほどの一体感がなくなってきました。
右手を挙げたら上を向くというだけの場合、180ミリ秒程度の速いタイミングで反応できています。しかし、選択肢が増えるとどんどん時間がかかるようになります。ただ選択肢が6個と10個ではそれほど大きくは違いません。やはり1 と2の違いが大きいです。これを「ヒックの法則」(※)と言います。
※詳しくは、『運動学習とパフォーマンス―理論から実践へ』(リチャード・A. シュミット 著)を読んでみてください。
これを野球でいうと、1個の選択肢というのはストレートしか投げられないピッチャーのこと。すると、打者は180ミリ秒もあればそのボールにしっかり反応することができます。だからピッチャーは少なくとも2つの選択肢、2つの球種を持つことが非常に重要なわけです。逆に言えば、2つさえあればバッターの反応を遅らせることができるわけです。
バッターにもまだ少しだけ対策が残っています。ストレートだと思ってスイングをしようとしたらカーブだった。バッターが使えるのはほんの220ミリ秒くらいですから、脳までフィードバックしている時間はありません。そこで「反射」です。反射神経がいい悪いと言いますが、反射というものは基本的に無意識の反応で、練習のたまものであったり、それぞれの素養であったりします。
カーブだと思った時点で体のバランスが崩れますが、無意識に、体勢が戻り、四肢を安定させてくれます。さらに短い時間でプログラムを立て直し、カーブに対応しようとします。プロのアスリートがよくインタビューなどで「体が勝手に反応しました」と言っているものです。
