第5回 低炭素社会は近い。「活力社会」か「ゆとり社会」の選択
低炭素社会はそこまで来ています。ここで「CO2ゼロ排出」に向かう通過点として、2050年に80%削減された社会の具体的な2つのシナリオを示しましょう。
シナリオAは、技術を駆使した「活力社会」です。都市への居住はさらに進み、グローバル化の国際社会の中で、大いに働き、遊ぶ。省エネルギー技術の導入を徹底的に進め、資源・製品は完全リサイクルに向かう。活発な投資のもとでGDPの成長は年間2%を見込みます。
シナリオBは、自然と共生する「ゆとり社会」です。人々は田園に広く住み、時間をゆったりとすごす。家族と一緒の時間を大切にする。人口の減り方がやや少ない社会でもある。GDPの成長率は年間1%を見込んでいます。
キーワード | シナリオA | シナリオB | |
考え方の 主流 | 個人が目指す姿・夢 | 社会的成功 | 社会貢献 |
生活・居住地 | 都市居住志向 | 地方居住志向 | |
家族 | 個人志向 | 共生志向 | |
先進技術 | 積極的受容 | 導入に慎重 | |
人口 | 出生率 | 低位で推移 | やや回復 |
移民受け入れ | 積極的に受け入れ | 現状程度 | |
海外への移動 | 増加 | 現状程度 | |
国土利用 | 国内人口移動 | 大都市に集中 | 分散化 |
都心部 | 中心部に集中 | 都市人口減少 | |
土地の高度利用進展 | 最小限の都市機能維持 | ||
地方都市 | 人口大幅減少 | 人口は徐々に減少 | |
土地資源を効率的に利用した新しいビジネスが普及 | 地域の独自性や文化を前面に出した活気ある地方都市が出現 | ||
生活・家庭 | 仕事 | プロフェッショナルの増加 | ワークシェアリング |
高収入、長時間労働 | 労働時間の短縮・均等化 | ||
家事 | 機械化や外部サービス化が進展 | 家族や近所住民との協力 | |
自由時間 | キャリアアップ | 家族との時間 | |
スキルアップ | 趣味・社会活動(ボランティア等) | ||
住宅 | 集合住宅選好 | 戸建住宅選好 | |
消費 | 消費・買い替えサイクルは短い | 消費・買い替えサイクルは長い | |
経済 | GDP年間成長率 | 1人あたり2% | 1人あたり1% |
技術進歩 | 高い技術進歩率 | シナリオAほどは高くはない | |
産業 | 市場 | 規制緩和進展 | 適度に規制されたルール浸透 |
第一次産業 | GDPシェア減少 | GDPシェア回復 | |
主に輸入に依存 | 農林水産業活発化 | ||
第二次産業 | 付加価値増加 | シェア減少 | |
生産拠点の海外移転 | 地域ブランドの多品種少量生産 | ||
第三次産業 | シェア増加 | シェアやや増加 | |
生産性改善 | 社会活動が普及 |
シナリオABともに産業構造は大きく変わることが予測されます。A活力社会では、グルメ化・外食化で食品産業は伸びるが、Bゆとり社会ではむしろ地産地消や家庭内食化が進み、いわゆる産業としてあまり伸びないかもしれません。
情報化が進み、A活力社会では通信・放送が伸びるでしょう。また教育・介護などの外部サービスが増えるが、Bゆとり社会では家庭内で教育・介護ができるから売上高にはあまり反映されないでしょう。
自動車などの輸送機械はAB両社会とも削減傾向になります。人口減、運送の合理化、移動の必要性や欲求の減少がその理由です。A活力社会では、コンパクトシティと呼ばれる都市のつくりを密にすることで、近距離移動で用が済むようになります。自動車から地下鉄に乗り換える傾向が増えるでしょう。これをモーダルシフトといいます。逆にBゆとり社会は、田園分散型居住のため移動のための自動車が必要になるでしょう。
地下鉄利用が増えていったとしても、2050年において移動手段で大きなシェアを占めるのはやはり自動車でしょう。ハイブリッド化や電気自動車はすでに市販されている電気自動車に置き換えただけでも、CO2の発生を4分の1に下げられます。
この2つのシナリオは将来像として異論もあるでしょう。私自身、どちらが望ましいかを問うのは本意でありません。キミたち若い世代だったら、自分の能力を発揮できる機会の多そうなシナリオAを選ぶかもしれません。
いずれにせよこのシナリオのポイントは、ちゃんとした科学的根拠に基づき、どちらの社会でも知恵を出し合えば、GDP年率1~2%の成長をしながら、35年後に80%を削減することができるということにあります。
つづく
第6回 35年後の5つの社会~キミはどれを選ぶ?
<前回の記事を読む>
第4回 CO2、80%削減を実現する技術と研究とは何か
