第6回 35年後の5つの社会~キミはどれを選ぶ?
前回、CO2の80%削減を実現した未来図のシナリオを提示しましたが、最近、その2つのシナリオをもっと精密に具体化した、2050年に想定しうる5つの社会像を描出したので、紹介しましょう。
その5つとは、1.ものづくり統括拠点社会、2.メイドインジャパン社会、3.サービスブランド社会、4.資源自立社会、5.分かち合い社会。
1.ものづくり統括拠点社会は、ものづくりの技術開発で世界の中心地となり、低炭素技術で世界を牽引する社会です。統括拠点だけを日本に置いて、海外の売り上げにより成長を見込んでいます。つまり日本は世界の知恵の中心地になろうという発想です。
2.メイドインジャパン社会は、海外の中・高所得者層向けのメイドインジャパンの高付加価値製品を製造・販売する社会です。つまり低炭素技術を生かした様々な商品を日本で作りながら成長していこうという社会。雇用は高まりますが、国際競争にさらされるから労働者の賃金が抑制され、為替変動が激しいというマイナス面もあります。
3.サービスブランド社会は、日本が伝統的に育んできたサービス精神を生かし、海外から来訪した外国人の消費により成長する社会。イタリアのように自国のブランド品で稼ごうということですね。
4.資源自立社会は、世界のナショナリズム化に備えて、他国の資源を当てにせず、エネルギーや資源、食料などを可能な限り国内でまかなおうという志向の社会です。
5.分かち合い社会は、新たな価値観の下で必要なモノとサービスを国内調達し、無理なく暮らせる“お互い様”社会で、時間的な余裕のある生活を重視する社会。
この5つの社会のポイントは、どの社会であれ、2050年CO2の80%削減を念頭に置いていることです。ただし、2.メイドインジャパン社会だけは80%削減はちょっと厳しい。その場合、排出されたCO2を分離し、地中や海中に圧力をかけ押し込め貯蔵する「CCS技術」がどれだけ進むかがカギとなります。
もう一つのポイントは、GDP年率1~2%の成長を想定していることです。モノを共有するコミュニティの「分かち合い社会」のみはマイナス成長になります。ただしGDPは国民の幸福度という観点から見れば正しいかどうか、考えてみる必要があると思います。みんながちょっとずつ助け合う「分かち合い社会」は、賃金は安くとも高齢者の雇用吸収力は高いというプラス面も出てくるわけですから。
5つのシナリオで重要なことは、まず自分たちがCO2を削減したどのような理想の社会を築きたいのかを明確にし、そのための戦略を描いたことにあります。この手法を「バックキャスト」の意思決定と言います。強い意志のもとで目標に到達する最も効果的なバックキャストについては、最後にもう一度述べることにしましょう。
2050年の社会像を光の部分(+)、影の部分(-)の両面から検討。 5つの社会像を提示 | ||
R&D ものづくり 統括拠点社会 | + | ものづくりの技術開発(R&D)で世界の知恵の中心地となり、低炭素技術で世界を牽引する社会。技術開発力を活かして海外の売上げにより成長。 |
- | 世界トップレベルの技術力を維持するため、世界最先端施設の整備や変革者の発見と育成を行ない、激しい競争に打ち勝っていくことが要求される社会。 | |
MIJ メイド イン ジャパン 社会 | + | 世界を相手にする低炭素技術を中心とした製品や、海外の中・高所得層向けのメイドインジャパンブランドの高付加価値製品を製造・販売する。 |
- | イノベーションが起こりにくく、国際競争力の維持のために生産に従事する労働者の給与は抑制され、為替変動にも大きな影響を受ける社会。 | |
SB サービス ブランド 社会 | + | 日本が伝統的に育んできた丁寧なサービス精神を生かして、海外又は来訪した外国人の消費により成長する第三次産業中心の社会。 |
- | 海外顧客向けの高品質なサービスが追求され、国内の富裕層のみがそのサービスを利用できる社会。 | |
RI 資源自立社会 | + | 世界のナショナリズム化に備えて、エネルギーや資源、食料などを可能な限り国内でまかなうことを志向する社会。 |
- | 資源自立を維持するため、経済的に高いエネルギーや資源を使用している社会。 | |
Share 分かち合い社会 | + | 新たな価値観の下で必要なモノとサービスを国内調達して、無理なく暮らせるお互い様社会で、時間的に余裕のある生活を重視。 |
- | 経済的には脆弱で、個人よりもコミュニティが優先される社会。集団行動やモノの共有が日常となる。 |
つづく
第7回 高校生へ 「キミのやりたいことは何だ?」とまず考えてみよう
<前回の記事を読む>
第5回 低炭素社会は近い。「活力社会」か「ゆとり社会」の選択
