第14回 人間の脳の中にコンピュータを入れる時代は来ますか?~高校生との対話(1)
高校生 霊長類の脳をコンピュータで再現したという先生の話ですが、人間の脳でもその人が持っている個性とか考え方の偏りとかも再現できるんでしょうか。
濱上先生 確かにスーパーコンピュータで脳をシミュレートし脳の一瞬の動きをコンピュータで再現することはできつつあります。けれど中で動いているニューロンが次の瞬間、どう変わっていくのか。それは確率的にしか再現できない現象です。脳の仕組みをコンピュータで写し取ったからと言って、マーモセットの同じ思考を再現できたということとは違うでしょう。
高校生 ビッグデータって、どれぐらいの情報量なんですか。
濱上先生 みなさんが大容量と言ってご存知なのはギガ・テラバイトですよね。テラはギガの10の3乗倍(1000倍)です。さらにテラの10の3乗倍はペタ、ペタの10の3乗倍がエクサと言って、このオーダーまで今どんどんデータは増えていっています。さらに2020年に、その上のゼタまで増えると言われています。ギガから考えると、1兆倍のビッグデータですね。
高校生 将来、人間の脳の中にコンピュータを入れる時代は来ますか。
濱上先生 例えば、耳の不自由な人の内耳の中に電極を入れてCPUで音を神経回路の信号に変換して脳に伝えるということはすでに実用化されています。ただそれを健常な人に入れていいかと言うと、倫理的な問題がある。倫理問題はもっと幅広い視点で議論をしていく必要があると思います。
高校生 2018年に人間の脳と同じ集積度のCPUができるという先生の話ですけど、CPUの性能ってもう限界ということを聞いたんですが。
濱上先生 確かに単位面積あたりコンピュータにオン・オフのスイッチを埋め込めるCPUの集積度を上げるのはもう物理的な限界があると言われています。ただ、複数の並行プロセスを同じシステム内で使用するなどの方法で、物理的な集積度を変えずに処理の集積度を上げることは可能でしょう。それよりも不思議なのは、人間の脳の並列処理能力です。ニューロン同士の情報伝達のスケールはたかだかミリ秒です。CPUと比べるとずうっとずっと遅いのです。こんなに遅くて脳はちゃんと動いているなと感心するくらい(笑い)。それくらい脳の電気的な動作は遅いのですが、大規模な並列処理があちこちで行われているために、実効的に速くなるんです。脳についてはまだまだわからないことはたくさんありますが、コンピュータのチップもそういう方向に進んでいくだろうと考えられています。