第13回 人間の脳を超えるか?~いま最もホットな最新人工知能研究 ビッグデータ+ディープラーニング
ディープラーニングとは何でしょう。機械学習の一種で、ニューラルネットワークを何層も重ねたディープ・ニューラルネットワークを駆使し、より正確で効率的な判断を実現させる人工知能の技術のことです。
1960年代以来、人間の脳細胞(ニューロン)を手本に、人工的に人間に匹敵する神経回路を作ろうとしたニューラルネットワークの研究は、急速に進化してきました。それまでの信号が1対1でつながるとする単純ニューラルネットワークモデルから、より多層ニューラルネットワークへ。そしてさらに最近、より人間の脳にように深いニューラルネットワークを作り、これを学習する方法がわかってきた。それをディープ・ニューラルネットワークと呼びます。そしてそれを実現するのがディープラーニングです。人工知能研究の進展の結果、人間の脳ネットワークの思考を再現する方法がようやくわかってきたのです。
言い方を変えると、ディープラーニングは、私たちが人を瞬時に識別するときの視覚・聴覚などを総動員する脳におけるパターン認識と非常に似ているといえます。人を認識する際、人間は視覚や聴覚などを総動員して人を識別します。つまり(視覚)や(聴覚)といった複数の入力値を元に、階層的に人の全体像(身長や体格)を見て細部(目つきや声)を認識し、細部を見てはまた全体を認識しなおすというような、階層的で深いパターン認識のアプローチを採用している。その点が、従来のニューラルネットワークモデルと大きく異なると言えるでしょう。
とても重要なことは、ディープラーニングによって、人工知能の最大の問題「フレーム」問題を克服し、本当に脳に匹敵する人工知能ができる可能性が開かれたことです。これまでの人工知能は、学習の前提となるフレーム(思考の枠組み)は人が与えました。ディープラーニングではもはや人からの教育は必要ない。それどころか人が気づいていないことまで見つけてくる。無数の情報の中から意味や概念を自分で作り上げるのです。言い換えれば、機械は自らフレームを創り始めたといえます。人工知能は、人と機械の境界を越えようとしているのかもしれません。
この成果を支えたのが、今最もホットな学問、ビッグデータ+ディープラーニングです。膨大なデータを読み込み、自ら自律的に判断し、答を導き出す。ディープラーニングは、まさしくビッグデータ時代だからこそできた人工知能技術と言えるでしょう。
ビッグデータ+ディープラーニングは様々な事象の予測・判断・最適化に使えるでしょう。例えば、やがて膨大な情報を処理し、画期的な創薬を短時間で開発できるようになるかもしれません。アナリストに代わって市場経済の予測・制御ができるようになるだろうし、変電所・配電ネットワークの制御のように複雑な協調行動の学習にも利用できます。
そう遠くない将来できるだろうものに自動運転の車が考えられます。人間が行ってきた仕事の代行に使える用途は尽きそうにありません。そうなったとき人は何をすればいいのでしょうか。人工知能はどこまで進化するのでしょうか。
アメリカの数学者ヴァーナー・ヴィジンが提唱する未来思想にこんな言葉があります。「これからコンピュータが加速度的に進化し、機械はいずれ人間以上の知能に加え、人間の意識まで持つようになる」。