第9回 複数の人工知能で瞬時に119番救命体制を作る世界初の機械学習技術~濱上研究室の機械学習・最先端研究
撮影・制作 木下雄介 / 企画協力 神奈川県立柏陽高等学校 ⇒他の動画はこちらから 動画で知る「人工知能/機械学習」
1990年代、人工知能の第2次ブームは下火になりました。ただしこの時期、ホンダのアシモのような人間ぽいふるまいをする人型ロボットが登場します。もう1つの重要なことは、機械学習研究が本格化したこと。前にも話したように、この機械学習が、この1年の第3次人工知能ブーム到来の橋渡しをします。
機械学習の最先端研究を私自身の最近の研究から紹介しましょう。横浜市の「コールトリアージ」という救命救急医療の仕組みを、機械学習を用いて実現する試みを始めています。高齢化を背景に、119の救命コールが急激に増えているという事情があります。横浜市では過去10年に55%増加する一方、救急隊は10%しか増えていません。しかも比較的軽症でも119コールをしてしまう人は多く、いざという時に重症の人を助けられないという問題がある。そこで、患者の容態に応じて緊急度、重症度を判定し、それに応じて救急の編成を決定するという仕組みを始めたのです。トリアージは、「峻別」を意味します。
もう少し具体的に説明しましょう。119番通報が入ると消防署救命センターのオペレータは患者の重症度に応じて5段階の判定をし、それに応じた救命救急隊の編成する必要があります。医者が重症度を判定できればいいのですが、それは現実的ではありません。私たちが用いた方法とは、機械学習をする人工知能、それも1台でなくたくさんのコンピュータを用いて、機械が合議によって判定するという方法です。ここで重要なことは、それぞれの機械は、人間の助力なしに、自ら自律的に考え、それぞれ異なった解を導き出すということです。
人間の医師でも、まったくすべてをトータルに判定しているわけでなく、専門性や個性などによって、診断する際の診断の重みづけの傾向は異なります。また1人の医師より複数の医師が合議したほうが、より正しい診断に導ける可能性は高まります。三人よれば文殊の知恵と言いますね。それと同様のことを、機械が合議によって行うわけです。
コールトリアージは、これによって80%くらいの高い精度で重症度を判定できる仕組みを作り、少ない救急隊員の数でたくさんの患者さんに対応することを可能にしています。この救命救急体制を瞬時に判断するシステムは世界初の機械学習の技術です。
私の研究は小さな知能が集まって、大きな知能を作る「知能化社会」を目指しています。救命救急の重症度判定や、機械の故障診断で、人工知能でサポートすることで、人の意思決定や発見、人同士の協調など、もともと人間が持っている知的なふるまいをさらに強化したいと考えているのです。