第8回 人工知能は、さしあたって昼のおかずと自分の目標とは関係ない、と見なす能力がない~人工知能の大きな壁
人工知能は確かに、人の助けなしに自分で勝手に学ぶようにまで進化しました。しかし、実は現在もまだ解決していない人工知能の大問題があるのです。
その問題とは「フレーム問題」と呼ばれています。60年前の人工知能研究の誕生期、当時の人工知能では絶対解けない根本的問題でした。
あなたは将来、人工知能の研究をしたいと思っているとしましょう。そのために、何をすればよいか、いつも考えています。ところであなたの今日の昼ごはんのおかずに「ウインナー」が入っていました。「ウインナー」を食べる際に、「これを食べると人工知能の研究者になれるかな」と考えましたか。
考えないですよね。人工知能と関係ないからです。「関係ない」ということすら、あなたの意識にはのぼりません。私たちは、何かの目標達成(この場合人工知能研究者になる)について考えるとき、それに必要な事柄だけを無意識に選んで、無駄な探索(お昼のおかずが何か)を避けています。つまり人間の脳というのは、今考えなくていいことは考えなくて済むような「枠=フレーム」を無意識に作っています。これが人間の知能の一番すごいところです。
ところが今の人工知能には「考えない」という処理はありません。目標に対して、何が関係あって何が関係ないのか、世界のありとあらゆる事柄の関連を調べ上げ、何が「重要」なのかを調べないと動けない。フレームを自分で作ることができないからです。
このフレーム問題が持ち上がり暗礁に乗り上げた1970年代、人工知能研究は冬の時代を迎えます。80年代になってもフレーム問題は依然、解決していませんでしたが、人工知能の技術者は、ある意味うまい方法を考案しました。例えば80年代、人工知能内蔵という触れ込みの冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどが登場しました。
例えば、電気炊飯器なら「ごはんを炊く」など、場面を限定し人工知能が扱うフレームをあらかじめプログラム中に作り込むことによって、フレーム問題を“回避する”使い方が広まってきたのです。
しかしなんといっても人工知能の発展に大きく寄与したのはゲーム機です。1980年に登場したアーケードゲームにパックマンというゲームをご存知でしょうか。日本が作った世界に誇るゲームで、世界でおそらく初めて人工知能っぽい仕組みを入れたゲームです。最近のゲームはさらに進化し、何らかのかたちで人工知能研究の成果の一部が使われています。そのせいか、人工知能を研究した学生が、ゲームメーカーに就職することも多くなりました。
人工知能は80年代以降、大きく発展し、第2次人工知能ブームと言っていい状況が現出します。ただし第2次ブームは猫も杓子も「人工知能」を冠した話題先行型ブームの感が強く、やがて下火になりました。フレーム問題は現在もまだ解決していません。しかしこの1年の第3次人工知能ブームの到来中、今度こそ解決の兆しが見えてきています。