人類20万年 遥かなる旅路
アリス・ロバーツ、訳:野中香方子(文春文庫)
著者がホモ・サピエンス(我々と同じ現生人類)の出現と拡散の足どりを辿るという構成で書かれています。アフリカ(第1章)/インド・東南アジア・オーストラリア(第2章)/北アジア・東アジア(第3章)/ヨーロッパ(第4章)/アメリカ(第5章)を旅し、遺跡や研究所を訪れて研究者と会って対話したり、発掘調査を見学したりして、研究の全体像を理解していきます。
そうした著者の経験に沿うかたちで、自然人類学・遺伝人類学・考古学を中心とする学際的な研究成果についてわかりやすく紹介されています。世界各地でどのように研究が進められているのか、自分が世界各地を訪れている気持ちになって読んでもらいたいです。
実験考古学による先史時代の狩猟具の研究
狩猟具の先端につける台形様石器を研究
投槍器や弓矢などを使用した遠隔射撃による狩猟は、4万5千年前ごろに始められ、ホモ・サピエンス(我々と同じ現生人類)に特有の行動と考えられています。その確かな証拠を得るために、世界各地で研究が続けられています。
投射具(投槍器か弓矢)とともに使われていた
狩猟具の使用方法を明らかにするために、複製した台形様石器を先端部分に装着し、4つの方法(手で投げる、投槍器で投げる、弓で射撃する、刺突する)で使用実験を行い、実験で使用した台形様石器の複製品と遺跡から出土した台形様石器の欠損状態を比較しました。その結果、台形様石器が装着された狩猟具は、投槍器あるいは弓矢といった器具とともに使われていたという先行研究で示されていた仮説を支持する証拠が得られてきました。
衝撃を吸収する仕組みも
また、台形様石器が装着された狩猟具には、先端に装着された台形様石器への衝撃を吸収して欠損を軽減する仕組みがあったこともわかってきました。こちらは、これまで誰も試していなかった条件で実験したことで気づくことができた、新しい発見でした。
この研究を進める中で、誰も知らない新しい何かを見つけて説明するところに、研究することの醍醐味があると思うようになりました。
「欠損痕跡の形態分析と欠損面のフラクチャー・ウィング分析による台形様石器の研究」