人文地理学

産業集積

バンコク周辺に自動車産業の集積地ができるメカニズムとは


宇根義己先生

金沢大学 人間社会学域 人文学類 現代社会・人間学プログラム(人間社会環境研究科 人文学専攻)

出会いの一冊

高杉さん家のおべんとう(漫画)

柳原望(メディアファクトリー)

地理学者を取り上げた、おそらく最初にして唯一のマンガです。私が今取り組んでいる研究に直接結びつくような内容ではありませんが、地理学という学問分野の持つ特徴や地理学者の考え方、行動、そして地理学を学ぶ学生や研究者たちの生態(!?)が、かなりリアルに描かれています。

この漫画、日本最大規模の学会「日本地理学会」で「2014年度日本地理学賞(社会貢献部門)」として表彰されているんですよ。私の研究室に全巻置いています。

こんな研究で世界を変えよう!

バンコク周辺に自動車産業の集積地ができるメカニズムとは

日本の部品企業500社がタイに進出

日本で走っている日本メーカーの乗用車のなかには、タイで製造されたものがあることを知っていましたか。日本メーカーのほとんどがタイに組立工場を設立していますし、日本の部品企業500社以上がタイに進出しています。

私はグローバル化の進む日本の自動車産業において、企業がどういう論理や戦略で海外進出し、どんなものづくりをしているのか、またそこで働く人々や地域に与える影響について、タイの自動車産業を事例に分析しています。

自動車には2万点の部品が必要

自動車製造には1台あたり約2万点の部品が必要です。工場間の頻繁な部品輸送が必要なため、輸送費や輸送時間が重要となります。そこで、自動車工場に近接して部品企業が立地する状態、つまり産業集積ができます。

こうした考え方については、工業立地論として地理の授業で学んだ方もいらっしゃるでしょう。私の研究では、そうした理論をもとにして、バンコク周辺で自動車産業集積の形成メカニズムを、フィールドワークをもとに分析してきました。

遠く離れて工場を作る企業も

一方、バンコクから数百キロ離れた地域に立地する企業も増えています。ここ数年研究しているのは、そうした工場分散の要因分析やイノベーションについてです。研究途中なので詳しくは述べられませんが、長距離輸送の問題を克服する各社の戦略や多くの企業に共通する特徴などが分かってきました。

また、工場分布図をGIS(地理情報システム)により作成もします。地図を片手にフィールドワークし、新たな知見や着想を得る。これが地理学の醍醐味です。

新興国で普及する自動車。自動車工業はどのように発展し,新興国をどう変えているのでしょうか?
先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「付加価値創造政策下におけるタイ自動車産業のダイナミズムに関する地理学的研究」

詳しくはこちら

どこで学べる?
先生の授業では
◆講義「地理学概論」などの入門講義では

コンビニやコーヒーチェーンの立地についての話題を、身近な事例導入として話しています。チェーンごとの立地特性や戦略があること、それを、空間スケール(世界、都道府県、市区町村)を切り替えてみると違った見方になることを示し、地理学的な見方について伝えています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
学生研究室での一コマ。書籍や機材が整い,学生が研究したり寛いだりしています。
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2) ソフトウェア、情報システム開発

(3) コンサルタント、学術系研究所

◆学んだことはどう生きる?

Nさんは、2年生から一貫して農業や農産物流通に関心を持ち、卒業論文では石川県の伝統野菜「加賀野菜」のブランド化について研究しました。卒業後はその経験を生かして、地元富山県の農業発展に貢献するため、農業関連法人に就職しています。一方、Yくんは卒業論文でドローンを使って地形改変を分析し、GIS(地理情報システム)のスキルを習得しました。現在は、地理情報分析や航空測量を行う企業で活躍しています。

先生の学部・学科は?

人間社会学域ではプログラム制を採用しています。プログラムは7つあり、所属するプログラムでは自分の関心に合わせて専門分野を集中的に学ぶだけでなく、学問横断的な履修も可能である点が、全国的にユニークです。例えば現代社会・人間学プログラムでは、主に地理学を学びつつ、社会学や文化人類学なども深く学修できます。地理学については社会地理学や経済地理学のほか自然地理学など幅広く学べます。他学類にも地理学教員が複数在籍し、全国有数の規模です。

金沢の伝統的な町並みを学生とフィールドワークしている様子。
中高生におすすめ

先生、イノベーションって何ですか?

伊丹敬之(PHP研究所)

とっつきにくい「イノベーション」を、身近な例をもとに、著名な経営学者・伊丹先生がわかりやすく説明しています。「ものづくり」と私たちの生活・社会との関係、そして地理学的な視点もあって面白いです。


消費大陸アジア 巨大市場を読みとく

川端基夫(ちくま新書)

「インドネシアでポカリスエットを売る」「アメリカで牛丼を売る」など、経済地理学者の川端先生が、日本企業の海外進出と海外市場の論理を、フィールドワークをもとに解き明かしています。


消費するアジア 新興国市場の可能性と不安

大泉啓一郎(中公新書)

アジアの今を広く知るには最適の新書です。タイトルの「消費」だけでなく、都市や農村の発展、新しい経済圏(メガリージョン)の誕生、政治問題などが解説されています。


先生に一問一答
Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

ドヴォルザーク、『交響曲第9番 新世界より』がお気に入りです。

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

子どものころに観た、『天空の城ラピュタ』。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

サイクリングサークル。北海道を2,000km旅しました。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

今ではほとんどニーズのなくなった、カメラ店でのフィルム現像。 

Q5.研究以外で楽しいことは?

空や雲をカメラで撮影すること。空は最も広い「美術館」です。


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