国際関係論

武力紛争ではなぜ一般市民が多く殺されてしまうのか~市民の保護のための研究


清水奈名子 先生

宇都宮大学 国際学部 国際学科

どんなことを研究していますか?

多くの人々が平和を望んでいるのに、なぜ戦争が続いてしまうのか。どうすれば戦争を防ぐことができるのか。第一次世界大戦の後に研究が始まった国際関係論という学問は、その中心的な課題として戦争と平和の問題に取り組んできました。現代の世界では、国家間での戦争よりも、中東のシリアのように一つの国のなかで対立する集団が武力を使った紛争(武力紛争)を続けることで、多くの犠牲が出ています。

私が研究しているのは、「武力紛争下の文民の保護」についてです。武力紛争が起きている場所で犠牲となる人の割合は、戦闘員よりも「文民(civilian)」と呼ばれる一般市民の方が多いのが、現在の世界の大きな問題です。内紛が長く続くシリア内戦でも、女性や子ども、お年寄りなど一般市民の犠牲が最も深刻だと言われています。実は、国際法には戦争の際に一般市民を攻撃してはいけないというルールがあるのです。なぜ戦いに参加することのできない一般市民がより多く殺されてしまうのか、このような犠牲を防ぐにはいかなる仕組みや働きかけが必要なのかを研究しています。

原発事故被害者の健康に関する権利の実現にむけて

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さらに、東京電力福島第一原発事故後の人間の安全保障と健康を享受する権利についても、研究を深めています。2011年3月に発生した原発事故によって、福島県はもとより、周辺地域も放射能汚染に見舞われました。これらの地域では、これまで経験しなかった原発事故の被害を受けて、多くの人が将来の健康に被ばくの影響が出るのではないかという健康不安を抱えて生きています。健康な生活を送ることは、国際的に保障された権利の一つです。その権利の実現のために、測定や健康調査を続けている市民の活動についても研究しています。

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授業風景

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→サービス業、製造業、教育関連、メディアなど
  • ●主な職種は→営業、教員、記者など
  • ●業務の特徴は→外国人や国際的な問題に対応する場面が多い
分野はどう活かされる?

異なる価値観や文化を持つ人々の社会的背景を理解しながら、コミュニケーションをとる場面において、その権利を尊重しつつ働くことができています。

先生から、ひとこと

国際関係を研究する学問が確立したのは、「戦争の世紀」と言われた20世紀になってのことです。その課題は常に、「戦争と平和」の問題に向き合うことでした。なぜ国々は武力を用いて争い合うのか、どうすれば異なる地域や文化に属する人々がともに生きていくことができるのかを考える作業が、その中心となります。

現代世界を見渡してみても、武力紛争や大量破壊兵器の拡散、テロ、内戦での集団殺害 など、多くの問題が存在しています。国際関係を学ぶということは、これらの問題はなぜ起きるのか、またどうすれば解決できるのかを粘り強く考え続けることです。 授業では、世界の諸問題に対処している国連などの国際機構の働きを学びながら、私たちが生きている世界に何が起こっているのかを一緒に考えていきたいと思っています。

先生の学部・学科はどんなとこ

宇都宮大学国際学部では、国際関係に関わる政治、法律、経済、社会、文化、言語、コミュニケーション、ジェンダーなどの領域について、幅広く学ぶことができます。

先生の研究に挑戦しよう

「日本における戦争の加害と被害に関する聞き取り調査」
アジア・太平洋戦争に戦闘員として参加した元兵士、または戦争の被害を受けた一般市民の方への聞き取り調査を行うことで、戦争時の被害を知ること。第二次世界大戦時の大きな被害が、その後の平和に関する研究の発展を促したため、このテーマを提案しました。

興味がわいたら~先生おすすめ本

世界を見るための38講

宇都宮大学国際学部:編

多様な社会、文化、歴史を持つ地域と人々から成り立つ世界について勉強する際に、どのような学問分野があるのかが、この1冊を読むと見えてくる。大学で教えている先生たちが、高校生に向けて、グローバル化が進む国内と世界の問題について、わかりやすく解説する。第1章第1講は、「戦争と平和に関わる学問とその社会的責任」というタイトルで、国際社会の戦争と平和をめぐるルールに関する学問を紹介。なぜ戦争を規制するルールがあるのに、現在も多くの地域で殺し合いが続いてしまうのか、戦争と平和について研究することにどのような意味があるのか、考えるきっかけにしてほしい。 (下野新聞社)


平和をめぐる14の論点 平和研究が問い続けること

日本平和学会

日本と世界が直面する平和の課題について、戦争と平和、差別と排除、新自由主義とグローバル化、ジェンダー、国連、市民社会、主権と人権、和解、援助、核軍縮、日米安保、憲法、戦後補償に関わる「問い」に答えながら考察していく。 (法律文化社)


教養としてのジェンダーと平和

風間孝、加治宏基、金敬黙:編著

ジェンダーと平和という2つのキーワードを使いながら、教育、貧困、労働、家族といった身近な話題から、核・原子力、国家権力、軍と安全保障まで、問題領域ごとにどのような課題があるのかを論じている。 (法律文化社)


ルポ 母子避難――消されゆく原発事故被害者

吉田千亜

世界史に残る大事故となった東京電力福島第一原発事故によって、多くの住民が避難を強いられた。やむをえず家族のなかで母子だけが避難をした世帯がどのような被害を経験したのかに関する貴重な記録。 (岩波新書)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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