統合動物科学、実験動物学、泌尿器科学、細胞生物学、発生生物学

生殖細胞

生殖再生医療や男性避妊を可能にする精子形成の研究


高島誠司先生

信州大学 繊維学部 応用生物科学科

出会いの一冊

へうげもの

山田芳裕(モーニングKC)

研究者というのはクリエイターとしての側面もあり、「自分は一体何者なのか」を問う作業だと思います。そのことを気づかせてくれた本として、『へうげもの』を挙げたいと思います。

戦国時代の武将「古田織部」が、偉大な先人に追いつき追い越そうと数寄者の道を直走る中で、己が何者かを見出していく物語です。この本で描かれる古田織部は頼りない部分も多々あるのですが、正解かどうかもよくわからない何かを、こめかみに血管を浮かび上がらせて血眼で追い求める気迫は、研究者に通ずるものがあります。彼が追い求めたものは何だったのか、最後のオチだけでなくエピローグまで、必見です。

こんな研究で世界を変えよう!

生殖再生医療や男性避妊を可能にする精子形成の研究

精子形成をうまく進めるための環境を創り出す

皆さんは、血液精巣関門という言葉を聞いたことがありますか?おそらく誰も聞いたことがないと思います。この構造は、精子幹細胞などの未熟な生殖細胞と、減数分裂に入り精子を形成する細胞を物理的に隔離し、それぞれに必要な環境を与えることで、精子形成全体がうまく進むようにするための、生体バリアとしての役割を果たします。

ですから、このバリア機能を低下させると、精子形成に必要な微小環境がなくなり、精子の成熟がストップします。また一方、精子幹細胞移植法という生殖再生技術があるのですが、この移植の時には、血液精巣関門が邪魔をして、精子幹細胞が生着できません。

『ひらけゴマ!』シグナルを探して

そこで私の研究グループでは、血液精巣関門の開閉メカニズムの解明を目指し研究を進めています。これまでに、血液精巣関門の正体が、セルトリ細胞という精子形成のサポーターとなる細胞が構築する密着結合(水や分子も通さない細胞同士の結合)であることが知られていました。

そして私たちは新たに『生殖細胞の細胞膜成分が血液精巣関門の開閉に関わっている』ことを明らかにしました。そこで現在、生殖細胞がどのようにして血液精巣関門の開閉を制御しているのか、『ひらけゴマ!』シグナルを探しています。このシグナルが見つかれば、精子幹細胞移植の効率改善による『生殖再生医療』だけでなく、精子幹細胞を傷つけずに残したまま一時的に精子形成だけを止める『男性避妊』も可能になります。

地球規模の課題解決に貢献できる

現在、欧米中韓等諸外国は人口減少局面にさしかかり、出生率の低下とその原因の一つである男性不妊に悩まされています。日本はそのファーストペンギンです。また同時に、世界中で『望まぬ妊娠』が問題となっています。

一方、害獣による農作物被害は国際的な食料問題に直結します。絶滅危惧種の保護には、精子・卵子の回収保存に加えそれらの個体化技術も欠かせません。そして、精子幹細胞の移植技術は既に齧歯類、家畜、霊長類で確立されています。

ゆえに本研究の成果は、精子幹細胞移植の実用化を加速し『精子幹細胞移植による妊孕性復活』『精子幹細胞を保存したまま精子形成を止める可逆的な男性・オス避妊』に資する技術として、上記の地球規模の社会問題の解決に貢献できると期待しています。

A:マウスの精巣。 B:精巣の中には精細管という直径100µmほどの細い管が折りたたまれて収容されている。その中で精子形成が行われる。C:精細管の断面. 細胞核を濃い紫、細胞質を薄いピンクで染めて観察している。管の中にはさまざまな成熟度の生殖細胞が、規則正しく配列されている。 

D:Cの写真の解説図。外側には未熟な精原細胞(精子幹細胞を含む細胞集団)が存在し、減数分裂を始めて精母細胞になると血液精巣関門を通過し、円型精子細胞となる。この細胞はさらに変態を起こして伸長精子細胞となる.。

E:解きたい謎の図説。解明したい謎その1:生殖細胞がセルトリ細胞にはなつ『ひらけゴマ!』シグナルの正体をあきらかにし、それを人工的に操作することで、血液精巣関門を開閉できるか? 解明したい謎その2:血液精巣関門が、水や分子をも通さないバリア機能を維持したまま、生殖細胞同士が繋がった巨大な合胞体を通過させる、という矛盾を成立させる仕組みとはどのようなものか?
A:マウスの精巣。 B:精巣の中には精細管という直径100µmほどの細い管が折りたたまれて収容されている。その中で精子形成が行われる。C:精細管の断面. 細胞核を濃い紫、細胞質を薄いピンクで染めて観察している。管の中にはさまざまな成熟度の生殖細胞が、規則正しく配列されている。

D:Cの写真の解説図。外側には未熟な精原細胞(精子幹細胞を含む細胞集団)が存在し、減数分裂を始めて精母細胞になると血液精巣関門を通過し、円型精子細胞となる。この細胞はさらに変態を起こして伸長精子細胞となる.。

E:解きたい謎の図説。解明したい謎その1:生殖細胞がセルトリ細胞にはなつ『ひらけゴマ!』シグナルの正体をあきらかにし、それを人工的に操作することで、血液精巣関門を開閉できるか? 解明したい謎その2:血液精巣関門が、水や分子をも通さないバリア機能を維持したまま、生殖細胞同士が繋がった巨大な合胞体を通過させる、という矛盾を成立させる仕組みとはどのようなものか?
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

親族に医者が多かったので、自分もそうなるものだと思っていました。しかし、残念ながら成績が及ばず、親族にも(理由は不明ですが)お前は医者はやめておけと言われ、違う進路を探しました。それでも、元々持っていた医学への極めて強い興味があり、医学部以外でそうしたことに携われないかと色々漁った結果、東京工業大学の第七類(今は東京科学大学生命理工学府)で人工肝臓を開発する研究を進めている研究室があることを知り、そこへ進学しました。

学部修士博士と、取り組んだ研究は全くうまく行かず、修士課程時には就職活動もしました。それでも博士号取得にいたることができたのは、医師でもあり研究者でもあった祖父の『お前は平和な時代に生まれたのだから、存分に研究しなさい』の言葉があったからだと思います。

昔の自分は大変素直で人の言うことをよく聞く人間だったので、人に流されての進路決定となってしまいましたが、現在、今の進路は間違っていなかったと自信を持って言えます。自分には型にハマった業務を正しく遂行する仕事よりも、自分の裁量で物事を動かすことができる仕事にやりがいというか、気持ちよさを感じる人間であることが、今の職業について初めてわかりました。やってみないとわからないことは世の中にたくさんありますので、まずはその時の自分に与えられた選択肢の中で、一番難しそうだが無謀ではない感じのものを選んで、自分の限界に挑戦するのがいいと思います。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「生殖細胞-セルトリ細胞間相互作用の操作による血液精巣関門消滅誘導技術の開発と応用」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
緑色蛍光タンパク質を発現する精子幹細胞を移植されたマウス精巣。移植された細胞の90%は血液精巣関門に弾かれて生着しないため、この移植実験は超超大量の精子幹細胞を濃縮して移植している。『ひらけゴマ!』シグナルで関門をひらけば、少ない幹細胞で精子形成の再生ができるはず。
緑色蛍光タンパク質を発現する精子幹細胞を移植されたマウス精巣。移植された細胞の90%は血液精巣関門に弾かれて生着しないため、この移植実験は超超大量の精子幹細胞を濃縮して移植している。『ひらけゴマ!』シグナルで関門をひらけば、少ない幹細胞で精子形成の再生ができるはず。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 薬剤・医薬品

(2) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

(3) 医療機器

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 大学等研究機関所属の教員・研究者

(3) 設計・開発

◆学んだことはどう生きる?

私の研究室の卒業生の9割は大学院の修士課程へ進学します。それらの学生の6割は製薬・医療機器・食品などのメーカーへ就職しています。一方、残り4割は博士課程に進学しています。なぜ大学院への進学率が高いのかは、私の研究室の研究内容が基礎医学に該当するから、あるいは製薬企業などで研究スキルを活かすには博士号が必要であることも関係しているからかもしれません。実は最近、私の研究室を出た後他大学で博士を取ったOBの中には、私と同じようにアカデミアで独立研究者になった学生さんもいて、嬉しい反面、負けていられないなと危機感を募らせています。

博士進学を考慮する学生さんはあまり多くはありませんが、私は博士号取得への挑戦は全力で応援しています。特に世界を股にかけて活躍をしたいのであれば、博士号を取得しない手はありません。日本も遅ればせながら、博士号取得に挑戦する学生への支援が広がりつつあり、その出口となる社会での待遇を良いものにしようという動きが広がってきています。

信州大学もSPRINGと呼ばれる博士学生支援の仕組みがあり、博士課程学生には給与と研究費が支給されます(選考を勝ち抜く必要があります)。そして何よりも、博士課程で経験する喜怒哀楽(特に自身の無力さを痛感する経験)は、必ずあなたを成長させてくれます。ぜひみなさんに挑戦してほしいと思います。

先生の学部・学科は?

私は繊維学部応用生物科学科に所属しています。上田蚕糸専門学校を母体とし、信州大学成立時に繊維学部として組み込まれました。元はお蚕様の学校なので、応用生物科学科は繊維学部の起源だと言えます。その後繊維化学工業の勃興とともに化学材料学科、機械・ロボット学科、先進繊維・感性工学科が設立され現在に至ります。

このように、繊維をキーワードに、異なる学科が一箇所に集い、学際領域研究が展開しやすい土壌が意図せず整ってしまっている全国唯一の学部となっています。実は私も、特殊な高分子を用いて精巣を体外で培養するための特殊なデバイスの開発を、機械・ロボット学科の先生とタッグを組んで取り組んでいます。いろんな何かを混ぜて、なんだかよくわからないけどもなんかオモロくて意味がある、かもしれない研究。そんな誰もやったことがない何かに挑戦することを応援してくれる場所です。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

BLUE GIANT

石塚真一(ビッグコミックススペシャル)

独立した研究者『Principal Investigator』になるまでには、様々な人との出会いがあります。そこから研究の進め方や実験技術だけでなく、有形無形の様々な何かを学び取り、それがその研究者の個性を形作っていきます。

この漫画では、ジャズを全く知らない主人公がテナーサックスを手にアーティストになるための挑戦を一人で始め、その中で出会いと別れを経験し、成長して変化していく部分と共に、成長しても揺るがない部分が描かれています。その揺るがない何かが、主人公の魅力なのだと思います。では、自分にその揺るがないものがあるのか?とても考えさせられてしまいます。理想の研究者像の一つは彼かもしれません。


鋼の錬金術師

荒川弘(ガンガンコミックス)

研究者の第一の関門は博士号取得ですが、この過程では「自分の最も弱い・嫌な部分(私の場合は自分の無知無能と軸の弱さなどなど)」と正面から向き合い、受け入れた上で、それでもなお前を向き進んでいくこと求められます。

鋼の錬金術師は、幼い頃に失ってしまった母親を、物質的な欲求をなんでも叶えてくれる『錬金術』で蘇らせようとして失敗し、その代償として手足や体を失った兄弟と彼らを取り巻く人々の群像劇です。「命あるものは必ず失われ、それを取り戻すことはできない」という真理、それに背いて禁忌を犯した代償として降りかかる不条理。それらから目をさらさずに向き合うことで、主人公たちは成長します。そして最後には、拠り所であった錬金術を手放し、ただの人間として力強く生きていく姿を見せてくれます。

長所を伸ばす教育はもちろんですが、自分の至らない部分や苦手なことなどから目を逸らさず向き合い続けることもまたその人を成長させてくれるものであることを示してくれる物語だと思います。博士号取得は、それを経験できる数少ないチャレンジです。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

細胞生物学です。私は実は大学では生体分子やバイオマテリアルの学科出身で、生物そのものは実は独学の部分がほとんどなんです。。。多細胞生物がどのようにして形を作り機能を発揮するのか、その基礎をもっときちんと学びたいと思っています。あとは数学、プログラミング、AI。必要なものは多いです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

シンガポール:メシうまで超便利!でも蒸し暑いです。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

アジカン:漫画・映画『ソラニン』のために作曲された『ソラニン』はよくできているなと感心しました。

Q4.感動した/印象に残っている映画は?

天空の城ラピュタ:空中海賊の首領のドーラは理想のボス
魔法少女まどかマギカ:ストーリー・絵柄・劇中曲、全てで視聴者を操るテクニックにすっかり踊らされました。

Q5.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

散歩している犬との触れ合い:ムツゴロウさんみたいにわしゃわしゃします。

Q6.好きな言葉は?

When you go where no one has been before, you are bound to find something unknown. by Dr. Ryuzo Yanagimachi.

好きな言葉:以前私が昇進した際、前職のボスである京都大学の篠原隆司先生・美都先生ご夫妻がお祝いの会を開いてくださり、そのときサプライズゲスト?でいらしてくださった、ハワイ大学の柳町隆造博士にいただいた色紙です。現在の社会基盤を構成する家畜繁殖技術や不妊治療技術のための最も大事な成果を挙げられた、生殖医学・生物学におけるレジェンドです。目の前にその方がいて、本当に驚きました!そしていただいた色紙には、私が行っている研究をご存知ないにも関わらず、それを的確に表現した言葉が書かれており、二重の衝撃でした。そしてとても励まされる言葉です。ご本人は大変明るく気さくな方で、研究にまつわるいろいろなお話を聞かせてくださいました。
好きな言葉:以前私が昇進した際、前職のボスである京都大学の篠原隆司先生・美都先生ご夫妻がお祝いの会を開いてくださり、そのときサプライズゲスト?でいらしてくださった、ハワイ大学の柳町隆造博士にいただいた色紙です。現在の社会基盤を構成する家畜繁殖技術や不妊治療技術のための最も大事な成果を挙げられた、生殖医学・生物学におけるレジェンドです。目の前にその方がいて、本当に驚きました!そしていただいた色紙には、私が行っている研究をご存知ないにも関わらず、それを的確に表現した言葉が書かれており、二重の衝撃でした。そしてとても励まされる言葉です。ご本人は大変明るく気さくな方で、研究にまつわるいろいろなお話を聞かせてくださいました。

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