ヒト、ほ乳類に限らず、多くの動物には内耳器官が存在し、音の受容やからだの平衡(バランス)を保つのに重要な役割を果たしています。実際に内耳器官で感覚刺激を受容している細胞が、感覚毛を持つ有毛細胞です。聴覚を受容する蝸牛の有毛細胞では、鼓膜の振動に応じた感覚毛の屈曲が電気信号を惹起し、この信号が脳に伝わることで音が認識されます。
平衡覚を受容する前庭器官でも、頭部の傾きに応じて感覚毛が屈曲し、その際に発生した電気信号が頭部の傾きとして認識されます。有毛細胞が障害されると、難聴などの聴覚障害やめまいなどの平衡機能障害が生じます。しかし、有毛細胞が感覚毛の屈曲を電気信号に変換するメカニズムについては、生理学的には解析が進んでいますが、物質レベルでは不明な点が多いです。
有毛細胞のイオンチャネル異常が難聴やめまいを引き起こす!
私は、感覚毛の屈曲(機械刺激)を電気信号に変換するイオンチャネルの遺伝子を探しています。ほ乳類では、内耳は硬い側頭骨の中に埋もれていますので、実験には多大な労力を要します。しかし、このチャネルは、聴覚・平衡覚の根源ともいえるタンパク質であり、学術的に極めて価値の高い研究だと考えています。
具体的には、自分たちで作出した遺伝子改変動物を対象に、顕微鏡観察、電気生理実験、生化学実験、聴覚検査などを行っています。このイオンチャネルの異常で、難聴やめまいなどの平衡機能障害が引き起こされることも容易に想像されることから、この分子をターゲットとした創薬は、必ずやこの分野の新しい治療法につながると考えられます。
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一般的な傾向は?
大学院生の進路として、医学部出身者の場合は、臨床医になるか、そのまま助教として教職員になる場合が多いです。他学部出身者の場合は、企業に就職しています。
分野はどう活かされる?
基本的な実験手法を学べるので、研究職に就けば役に立ちます。
内耳有毛細胞の機械刺激受容こそ、聴覚・平衡覚の根源であり、そのメカニズムを物質レベルで解明することは、学術的に極めて重要です。国内では、感覚毛の屈曲を電気信号に変換するイオンチャネル(機械刺激電気変換チャネル)の単離を目指している研究チームは、本学にしか存在しません。
また、本学にはそのための基本的研究設備と研究環境とが備わっています。また、内耳研究の盛んな大阪大学、英国サセックス大学との交流も盛んであり、必要に応じて、共同研究を行ったり、大学院生を派遣したりしています。
医学部を卒業しても、私のように基礎医学研究の道に進む人もいます。自分が何に対して興味を持っているのかわからない人も多いと思いますが、難しそうに感じられた分野でも、理解が進むと急に面白くなってきたりします。どんな課題にも、先入観を持つことなく取り組んでほしいと思います。
基本的な生物学の知識のみならず、分子生物学と物理学(特に波動や電気回路)の知識が必要になる。高校時代には、生物ではなく物理と化学の学習に励んでほしい。