細菌学(含真菌学)

感染後わずか2-3日で命を落とす!急性敗血症のメカニズムに迫る!!


柏本孝茂先生

北里大学 獣医学部 獣医学科 獣医公衆衛生学研究室

どんなことを研究していますか?

病原体が病気を引き起こすとは、どういうことでしょう。病原体が宿主体内に侵入しても、宿主が病原体をただちに排除すれば病気は起こりません。しかし病原体は、宿主体内へ侵入した後、宿主の免疫機構から逃避し、時には免疫機構を攪乱し、利用さえして、宿主体内での増殖・拡散を可能にしています。これが、病原体が病気を起こす「病原メカニズム」です。

このメカニズムは、病原体が何億年という歳月をかけて進化の過程で獲得してきたものですから、非常に巧みです。病原メカニズムは、病原体ごとに異なり、しかも、複数の機構が連携しながら存在しているため、全貌を明らかにすることは困難を極めます。

夏場の河口部、その菌は棲息する

困難なひとつに急性敗血症菌があります。敗血症とは、菌が血液中に侵入して全身を巡り、病状がかなり悪化した状態を指します。世界で、年間7200万人もの敗血症罹患患者が発生しており、約800万人が死亡していると言われています。私たちは、ビブリオ・バルニフィカスに代表される、いわゆる「人食いバクテリア」の感染による急性敗血症の起因メカニズムの解明に取り組んでいます。

ビブリオ・バルニフィカスは、海水と河川水が混ざる汽水域に棲息し、夏場、水温の上昇と共に増殖します。人は、この菌が付着した魚介類を食べることによる経口感染、あるいは、傷口が水に触れ、そこから菌が体内に入り込む創傷感染によりビブリオ・バルニフィカスに感染します。主に肝臓の悪い人や免疫力の低下した人に感染が見られます。感染者は、広範囲な筋肉の壊死に陥り、感染後わずか2、3日の間に50%から70%もの方が敗血症により命を落とします。

ビブリオ・バルニフィカスは、いかにして、このような短時間で感染者の命を奪ってしまうのでしょうか? 私たちは、そのメカニズムを解明して、その阻害法を開発することにより、人食いバクテリアの新規治療法を開発しようとしています。実現できれば、他の人食いバクテリアによる敗血症の治療にも応用可能かもしれません。

当研究室で撮影したビブリオ・バルニフィカスの電子顕微鏡写真です。ビブリオ・バルニフィカスは、菌体の一端にべん毛と呼ばれる鞭のような構造物を持っています。これを高速で回転させることにより推進力を生み出し、感染者体内を素早く移動して、感染を拡大します。
当研究室で撮影したビブリオ・バルニフィカスの電子顕微鏡写真です。ビブリオ・バルニフィカスは、菌体の一端にべん毛と呼ばれる鞭のような構造物を持っています。これを高速で回転させることにより推進力を生み出し、感染者体内を素早く移動して、感染を拡大します。
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→獣医業

●主な職種は→大動物・小動物臨床獣医師、国家および地方公務員または企業の研究員      

●業務の特徴は→獣医師国家資格が必要な仕事です。

分野はどう活かされる?

・公務員獣医師による、食肉の安全性検査、食中毒の原因究明や空港・港湾における検疫等を通じた国民の安全管理

・大動物・小動物臨床獣医師による病畜の治療や病気の予防(感染症の知識が役立ちます)

・製薬会社などの企業における新薬の開発や安全性試験

先生の学部・学科はどんなとこ

北里柴三郎を学祖とする北里大学の獣医学部・獣医学科は、感染症研究を行っている研究室が6研究室と、多くあります。北里研究所や北里大学の他学部との連携が取れており、共同研究等が行われています。特別栄誉教授である大村智先生は、ノーベル賞を受賞されました。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

「叡知と実践」。学祖である北里柴三郎から受け継がれている精神です。私たちと共に、世界初の発見をし、実社会への還元を目指しませんか。

先生の研究に挑戦しよう!

ヒトに感染する菌ですので、基礎知識のない高校生が実際に取り扱うことは危険です。菌から単離した細菌毒素を培養細胞に作用させ、作用機構を探るといったテーマなら可能です。

興味がわいたら~先生おすすめ本

ドンネルの男・北里柴三郎

山崎光夫(東洋経済新報社)

「日本の細菌学の父」はペスト菌や破傷風の治療法を発見し、医学の発展に貢献。門下生からはドンネル先生(雷おやじ)という愛称で畏れられ、かつ親しまれた、その北里柴三郎を描いた小説。当時、誰も成しえなかった破傷風菌の純粋培養に成功しただけでなく、その感染症の治療法までを考案した。また、多くの世界的な弟子を育て、我が国の感染症対策と感染症学研究の礎を築いた。基礎研究の成果を社会に還元するまで、オールラウンドにこなした不世出の天才と呼べる人物である。彼がいなければ、日本の感染症学研究は、現在のレベルになかっただろう。