銀二貫
髙田郁(ハルキ文庫)
日本人が江戸時代に発見し、今や料理のみならず微生物培養にも欠かせない「寒天」にまつわる時代小説です。ドラマにもなったため、ご存知の方も多いかもしれません。
私の研究と直接関係はありませんが、主人公が幾多の苦難を乗り越え、試行錯誤の末に寒天を使った有名和菓子の発明に至る過程は、まさに研究そのものです。主人公は、多くの人とのご縁を通じて大発明のヒントを得ていますが、革新的なアイディアが人との巡り合わせから創出される過程が感動的に描かれています。
この本は、私が米国のMITで博士研究員をしていた時、同じアパートに住んでいた北村貴司先生(テキサス大学教授※)に貸していただきました。面白いことに、北村先生との出会いがきっかけとなって広がった人脈が、今の私の研究の発展につながっています。(※2024年現在)
将来はMRIで心が読める!? 神経伝達物質を可視化するMRI造影剤の合成
感情、記憶、認知に関わる神経伝達物質
脳内には100種類以上もの神経伝達物質が存在すると言われ、感情、記憶、認知などの脳機能に密接に関わっています。また、脳の機能障害や精神疾患においては、神経伝達物質が過剰に分泌したり、不足したりすることがわかっています。
よって、脳の機能や疾患の謎を解明するには、どのような神経伝達物質がいつどこで分泌されるのかを正確に把握する必要があります。
目的の神経伝達物質とだけ反応する造影剤
MRIは、電磁波と磁石を使った放射線被ばくのない画像診断法で、体内を明瞭に観察できることから、病気や怪我の検査に用いられています。私は、MRIの診断薬である造影剤と呼ばれる合成分子を使って、神経伝達物質を可視化する技術の開発に取り組んでいます。
医療用の造影剤をそのまま用いても、神経伝達物質をMRIで可視化することはできません。そこで、目的の神経伝達物質とだけ反応してMRI画像が変化するような造影剤を、自分で設計し合成しています。
合成した分子が仮説通りに機能する喜び
無数の分子が存在する脳内で、狙った神経伝達物質とだけ反応する造影剤を開発するのは至難の業であり、腕の見せ所です。造影剤の設計においては、異種生物由来のタンパク質や抗生物質などの分子構造がヒントになることもあり、異分野からアイディアを得ることも少なくありません。
試行錯誤の末に合成した造影剤が、試験管の中ですら機能しないことは日常茶飯事ですが、脳内で仮説通りに機能しMRI画像が鮮やかに変わるのを見た時の喜びは計り知れません。
まだ動物実験の段階で、人への応用には多くのハードルがありますが、これらの造影剤が発展すると、MRIで人の心や記憶を読むSFのような技術が開発できる日もそう遠くはないかもしれません。
富山の田んぼに囲まれて育った私は、虫捕り網を片手に水棲昆虫や両生類の採集に明け暮れていました。当時から生物に関わる仕事(研究)に携わりたいと漠然と思っており、自分で定めた標的を捉えて観察するという意味では、虫捕り網が造影剤に代わっただけです。また祖父母の家に置き薬があり、売薬さんの話を祖母と一緒に聞くのが好きでした。これらの環境が、薬をつかった現在の研究に至る遠因となったのかもしれません。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 海外の大学で学びたいです。学問は何でも構いません。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? アイスランド。水が身体にあうから。 |
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Q3.一番聴いている音楽アーティストは? ヴィルヘルム・バックハウスが演奏したブラームスの「ピアノ協奏曲第2番」。 |
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Q4.感動した/印象に残っている映画は? 『ゴジラ対ヘドラ』 |