応用人類学

ヒトにだけ特有の「立ちくらみ」はなぜおこるのか?~ヒトの生理反応の研究


石橋圭太 先生

千葉大学 工学部 総合工学科 デザインコース/融合理工学府 創成工学専攻 デザインコース

どんなことを研究していますか?

急に立ち上がろうとすると、立ちくらみを起こす人がいます。立ちくらみは、脳の血液循環調節の障害によって起こりますが、個人差の著しい生理的な反応です。応用人類学の中には、生きているヒトを対象として、ヒトのからだの生理的な反応や機能を調べ、ヒトの進化や適応という観点から、生理現象を研究する分野があります。生理人類学という学問です。私は、立ちくらみのような脳の血液循環調節について研究しています。

生理現象の個人差を明らかに

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脳の血液循環調節は、ヒトの大きな脳の直立姿勢時に十分な血流供給を行い、立ちくらみを防ぐ重要な働きをします。立ちくらみは他の霊長類にはありません。これまでヒト特有の立ちくらみという脳血流の低下は、明らかになっていませんでした。そこで、寝た状態のままで、立ち上がったときに生じる立ちくらみの負荷の違いをシミュレートできる装置を作り、立ちくらみの個人差を詳細に検証しました。

こうした、生理的反応の個人差の研究は、将来、多様なユーザの個人差に対応するデザインなどの分野での活用も視野にいれています。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→製造業、サービス業、研究教育機関
  • ●主な職種は→設計職、企画職、研究教育職
  • ●業務の特徴は→デザインと関連する部署で活躍する例が多いです
分野はどう活かされる?

新規製品の設計・企画・調査に関わっています。

先生から、ひとこと

本コースは、これまでに多くのデザイナーを輩出してきた伝統あるコースで、学生の多くも将来デザイナーになることを希望して入学してきます。一方で、ときどきヒトを研究することそのものに興味を持つ学生もいて、研究者を目指す学生もいます。国立の研究機関の研究員や、大学教員になるケースもあります。本コースは、いろんな可能性があるコースといえます。

先生の学部・学科はどんなとこ

千葉大学工学部のデザインコースは約100年の歴史があります。人間が使う道具や、人間が生活する空間をデザインする上で、ヒトの特徴を理解する必要があるという考えから、応用人類学に関連する教育・研究に携わる教員が複数在籍しています。

先生の研究に挑戦しよう

反応時間を測定できる簡単な回路を組めば、ヒトは光に対する反応が早いのか、音に対する反応が早いのか、どちらの刺激を無視しやすいのか、利き手の影響や日内リズムの影響など、神経基盤の進化的起源を伴う現象をみることができます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病(上・下)

ダニエル・E・リーバーマン

生物学的にみたヒトの本来の特徴と現代文明社会での生活とのミスマッチを扱った本です。便利さ、快適さを追求するあまり、かえって様々な健康問題や病気を引き起こしているのではないかとする視点は、デザインを勉強するうえでとても大事です。2010年に来日された著者のリーバーマン先生の講演にとても感動したのを覚えています。その後,講演のテーマであったDysevolution(訳語なし、リーバーマン先生の造語)というタイトルで本を出版されるというのを聞いて、すぐに予約購入しました。しかし、1年近く待たされたのちに届いた本のタイトルはThe story of the human bodyに変更されていました。日本語に翻訳され出版されたこちらの本も、変更されたタイトルに合わせていますが、当初のDysevolutionのままでもよかったように思います。Dysevolutionがいったいどのような現象をさす言葉なのかは、ぜひ本で確かめてみてください。原書の英語も読みやすいので、英語の勉強が好きな方はそちらもおすすめです。 (塩原通緒:訳/早川書房)


人間科学の百科事典

日本生理人類学会:編

この本の第10章の「ヒトを測る」の編集を分担で担当いたしました。ヒトの特徴を知るためには、まずヒトを正確に測る必要があります。生物学的に対象をとらえるためには、“What”と“How”と“Why”を統合的に扱うことが重要であると、20世紀を代表する生物学者のE.マイア先生はおっしゃっています。私の研究テーマに関連すれば、ヒトはなぜ(Why)立ちくらみをするのかを考えるためには、どのように(How)立ちくらみをするのか、またそのときに何が(What)起きているのかを調べる必要があります。ともあれ、ヒトを知るためのアプローチとして、正確な測定は最初のステップであると考えます。この本はかなり高価なので、各都道府県の中央図書館で探してみてください。 (丸善出版)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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