私たちヒトの祖先は700万年前ごろに誕生したと考えられています。かつてはたくさんのヒト属の仲間が地球上に存在していましたが、現在では私たちホモ・サピエンス1種を除いて絶滅してしまっています。そのため、ヒトの行動や社会といった形に残らないものがどのように進化してきたのかを知るには、ヒトと同じグループである、ヒト以外の霊長類の仲間と比較する方法が有効的です。ヒトに近縁なチンパンジーやゴリラなどの大型類人猿を対象とする知性の研究や、ヒトが進化したサバンナ環境に生息するヒヒの研究がよく知られています。
ヒトの条件は、直立二足歩行をすることです。ヒトの祖先は森林で誕生し、その後、開けたサバンナに進出しました。ヒトの祖先が直立二足歩行で長距離を歩き、大きな脳を持ち、道具を使うなどの様々な特徴を身につけたのは、サバンナで生きぬくことと関係があったと考えられています。
私の研究テーマは、初期人類に体の大きさが近いアヌビスヒヒの集団を対象に、彼らがサバンナでどのように仲間と暮らしているのかを明らかにすることです。私たちの研究プロジェクトでは衛星回線GPSや熱カメラなどの最新技術を導入し、アヌビスヒヒ集団の移動や捕食圧の解明にも取り組んでいます。ヒトの社会がなぜ形成され、どのような働きをもっていたのかを知ることは、現在と将来の私たちの社会のより良い姿を考えることにつながります。
野生動物保全と観光産業とのより良い関係を探す
世界的に生物多様性が失われており保全の必要性が訴えられていますが、私たちが日常生活でそのことを実感する機会は少ないのではないでしょうか。野生動物は観光対象のひとつです。魅力的な動物とその生息地の景観を体験することで、豊かな環境と生物多様性の重要性を認識することにつながります。
観光対象になる動物種は単独で存在しているのではなく、生態系の一部であるため、種の保全は生態系まるごとの保全が必要になります。このような保全活動には莫大な費用が必要ですが、十分な資金を持っていない国や地域のほうが多いのです。そこで、積極的に観光客を誘致し、観光収入を通じて、野生動物だけでなく生態系の保全をおこなうことが期待されています。その一方で、観光が現地の生態系に及ぼす負の影響は小さくありません。どの地域も、それぞれにベネフィットとリスクのバランスを探っていると言えるでしょう。
私の研究プロジェクトでは、動物の個体数や動物が利用している地域に関する情報を提供するだけでなく、生物多様性保全と観光産業との良い関係を探すこともおこなっています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→観光サービス業、航空業
- ●主な職種は→ホテル・フロント、ウエディング・プランナー、CA
- ●業務の特徴は→相手の望んでいることを先回りしてかなえることを仕事とするため、人間観察力が必要となる
分野はどう活かされる?
ホテル・フロント、ウエディング・プランナー、CAなどは接客業です。フロントやCA職は、相手の望んでいることを推測し、提供することで、顧客の満足度を高めることができます。社会の中で、相手が考えていることを推測する能力や臨機応変に対応する力を身につけることにゼミ研究は役立っています。また、ウエディング・プランナーは当事者とその家族が挙式までの過程で気づく、価値観の違いによるジレンマをいっしょに解決していく仕事です。どのように対処するのか、人類学には多くの研究事例があり、ゼミ研究で学んだ知識が役に立っています。
生物としてのヒトを研究する自然人類学は、ミステリー小説に似ています。過去からの限られた手がかりで、現在の私たちに到達する過程を推測していくのです。手がかりには化石、現生動物の行動や形、遺伝子、現在の私たちの行動などがあります。
国際地域創造学部の目的は、グローバルとローカルを併せ持つ視野によって、地域社会における現代的課題の解決や国内外の産業・文化の振興に寄与できる人材を育成することです。
観光地域デザインプログラムでは、サステナビリティ―を軸に、観光ビジネス、観光政策、自然・文化資源のマネジメント、地域開発など様々な領域から学際的に「観光」「地域」「観光と地域の関係」と振興を考えます。
興味がわいたら~先生おすすめ本
人類大移動 アフリカからイースター島へ
印東道子:編
アフリカで誕生したヒトが世界中に拡散する過程をわかりやすく解説した本です。人類の地球規模の移動をテーマに、形態学、遺伝学、霊長類学、古環境学、言語学、考古学、古地理学、民族学など12人の研究者がそれぞれの専門分野から、2012年刊行時点での当時の最新の研究を紹介しています。人類学はいろいろなアプローチ方法・分野があるため、この本は自分の興味がどの分野にあるのかを見つけるのに適した1冊だといえます。ひとつの仮説だけを紹介するのではなく、別の仮説がある場合にはそれも紹介されています。これは科学の客観性を示している点で、良い書籍だといえます。 (朝日選書)