私たちの体を流れる血液で重要な働きをするものに、ヘモグロビンがあります。ヘモグロビンは、血液中の赤血球の中に存在するタンパク質で、酸素と結合する役割を持っています。ヘモグロビンは「ヘム」という赤い色素をもっています。血液が赤い色をしているのはそのためです。私はX線結晶解析という手法を用いて、ヘムの合成や分解に関わる様々な酵素たちの立体構造を原子レベルで観察する研究を行っています。
ヘムが分解されてできる物質は「ビリルビン」という色素です。ビリルビンが蓄積する病気を黄疸といい、特に新生児が黄疸になると、脳神経系の発達に影響があります。また、ヘムの分解に関わる酵素は酸化ストレスやガンとも関係があります。またヘムの合成に関わる酵素の異常として、皮膚損傷を伴う光過敏症遺伝病が知られています。
私たちの研究は基礎的なものですが、立体構造とコンピューターシミュレーションを組み合わせると、治療薬の効率的な創出が可能になるので、私たちが明らかにした立体構造はそれらの病気の克服につながると考えられます。
植物の発芽時期を調節するタンパク質の色素を作り出す酵素の立体構造を解明!
ヘモグロビンの赤い色素、ヘムは、実は植物にも含まれています。この植物のヘムを分解する酵素の立体構造を観察することにも成功しています。植物でヘムが分解されると、フィトクロムという光センサータンパク質に含まれる色素が合成されます。この色素は種子の発芽や開花といった現象に関わるタンパク質です。これに光を当てると、発芽時期や開花時期を調節できることがわかり、今では産業的にも使われています。
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医学科ですので臨床医となるためのカリキュラムが組まれていますが、1年次に研究見学、4年次に基礎医学・臨床医学の研究室で研究に取り組む機会が設けられており、学会発表や短期留学することも可能です。基礎医学・臨床医学・研究所が同じキャンパス内にあるため、交流の機会も多く、基礎から臨床までつながる医学研究が展開されています。
タンパク質は目に見えない微小な生体物質ですが、可視化することで機能と形のつながりが見えてきます。まさに百聞は一見にしかずという学問です。
インターネット上には蛋白質構造データバンク(PDB)というサイトが有り、これまでに解明されたタンパク質や核酸の立体構造が登録されています。化学や生物学の教科書に出てくるタンパク質や核酸を検索して、その形を見てみよう。
量子生物学 分子下生命像は解けるか
大木幸介(講談社ブルーバックス)
少々難解で内容も古びてはいるが、量子力学を使って生命科学を原理的に解き明かすという研究について解説されている。最近の理化学研究所の京コンピューターを使った研究にもつながるものである。