環境・衛生系薬学

インフルエンザの新しい感染メカニズムを見つける! 簡単ウイルス検出法を開発


高橋忠伸先生

静岡県立大学 薬学部 薬学科(薬食生命科学総合学府 薬食生命科学専攻)

どんなことを研究していますか?

多くの人が感染した経験があるインフルエンザには良い薬が開発されています。インフルエンザの薬として有名なタミフルはカプセルで飲みやすいため、病院でインフルエンザと診断された人にはよく処方されます。

しかし厄介なのはこの薬の効かないタイプのインフルエンザが出てくることです。2009年、新型インフルエンザウイルスがパンデミックと呼ばれる世界規模の大流行を起こしました。2013年以降、鳥インフルエンザウイルスが中国で多くの人に感染しています。高病原性と呼ばれる違うタイプの鳥インフルエンザは、東南アジアを中心に人への感染例が見られ、60%近い高い致死率となっています。薬が効きにくくなるメカニズムをはじめ、インフルエンザには多くの調べるべきことが残っています。

感染拡大を防御する、新しいウイルス検出法

私はインフルエンザの新しい感染メカニズムを見つけるための、新しいウイルス検出法の開発に取り組んでいます。これがあれば、新しい感染メカニズムを標的にした新薬の開発ができるようになります。さらにウイルスの流行や性状をいち早く察知して、その対策を講じることができるようになります。

現在、インフルエンザウイルスの表面のタンパク質に作用する薬は4種類ありますが、病院でどの薬が効きにくいかすぐに判定できるようになります。また家庭用の簡易なウイルス検出キットを作ることにも取り組んでいます。このようなキットによって、調子が悪くて病院に訪れる前にインフルエンザの疑いがわかるようになりますので、病院の待合室などで感染の拡大を防ぐことができます。

新しいウイルス検出法の開発により、バイオインダストリー協会の化学・生物素材研究開発奨励賞を受賞しました。横浜で開催されたBioJapan2016での受賞講演の写真です。
新しいウイルス検出法の開発により、バイオインダストリー協会の化学・生物素材研究開発奨励賞を受賞しました。横浜で開催されたBioJapan2016での受賞講演の写真です。
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→製薬企業、食品企業、公務員、病院、調剤薬局

●主な職種は→研究、臨床開発、行政、調剤薬局・病院などの薬剤師

分野はどう活かされる?

抗ウイルス薬やワクチンの研究、感染症に詳しい薬剤師、感染症に詳しい保健衛生・薬事の公務員

先生の学部・学科はどんなとこ

創立100年を超える歴史と伝統がある薬学部です。静岡県の健康寿命は全国でもトップクラスで、大学全体として健康長寿科学を推進してきました。国公立の薬学部の中でも6年制の学生が多く、研究活動が盛んです。医療や健康増進に貢献する指導的立場の薬剤師や、医療薬学領域の研究者を育成しています。薬剤師資格の取得後は、研究、企業、行政、病院、薬局など幅広い進路の選択肢があります。

また、4年制では創薬の専門家をめざした教育・研究活動が盛んで、学部卒業後は多くの方が大学院へ進学します。製薬企業やアカデミックな研究機関で研究・開発に携わる人材、行政従事者や医薬情報担当者など幅広く活躍できる人材を養成しています。その中でも私は、インフルエンザウイルスや小児感染ウイルスを中心にウイルス感染メカニズムを糖鎖の観点から研究しています。また、新しいウイルス検出法を開発し、その利用法も研究しています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

現在、2019年末に発生した新型コロナウイルスがパンデミックを起こし、世界中で猛威を奮っています。インフルエンザウイルスも過去に新型インフルエンザウイルスとしてパンデミックを起こし、世界を混乱させています。ウイルス感染症の拡大は、世界規模の災害に発展する恐れがあります。ウイルス検出法や抗ウイルス薬の研究から、ウイルス感染症の予防や治療に貢献してみませんか。

先生の研究に挑戦しよう!

【テーマ例】

・薬剤耐性インフルエンザウイルスの探索

・ウイルスの感染や増殖を阻害する化合物の探索

・ウイルスの感染や増殖を阻害する食品成分の探索

興味がわいたら~先生おすすめ本

闘う! ウイルス・バスターズ 最先端医学からの挑戦

河岡義裕、渡辺登喜子(朝日新書)

インフルエンザウイルス研究の醍醐味が、臨場感を持って味わえる一冊。2009年、パンデミックを起こした新型インフルエンザウイルスの研究開始状況や、高病原性ウイルスの人への感染メカニズムに関する研究成果が、テロに応用されることを心配したCIAの訪問など、感染症研究において表に出ない部分が、ノンフィクションのドラマのように楽しめる。 


インフルエンザ21世紀

瀬名秀明、鈴木康夫:監(文春新書)

インフルエンザとはどのようなものか、多くの研究者の多様な研究からどのようなことがわかってきたかを、一般向けにわかりやすく紹介している本。インフルエンザウイルスの感染のしくみや感染対策、管理側の情報処理やリスク管理まで、28名の専門家への取材から、ウイルスとどのように共生するかを描いている。