創薬化学

医薬品の潮流は、抗体医薬から核酸医薬へ


吉村祐一先生

東北医科薬科大学 薬学部(薬学研究科 薬科学専攻)

どんなことを研究していますか?

創薬化学は、一言でいえば、医薬品を創るための基礎的な研究です。直接、医薬品とならなくとも、医薬品を開発する上できっかけや足がかりとなる化合物を創ることを目指した研究や、疾病の治療に効果的な医薬品を開発する際に生体内での標的となる分子の発見や、評価系の開発なども、この分野の研究に含まれます。癌、アルツハイマーといった難病、さらには糖尿病のような生活習慣病を含む、すべての治療薬開発に関する基礎から応用研究までのほとんどがこの分野に含まれるといっても、言い過ぎではないと思います。

現在、国内外で抗体医薬と呼ばれる医薬品が、売り上げの上位を占めつつあります。これは病気の原因となるタンパク質に対する抗体を作り、その抗体を医薬品として使用するものです。この抗体医薬に対し、タンパク質の設計図である核酸に直接作用して病気の原因となる遺伝子の発現を抑え、病気の治療を行う核酸医薬が、次世代の医薬品として期待を集めています。

国内でも日本発の核酸医薬が臨床で使用され始めましたが、抗体医薬のような大きなうねりとなるには、核酸医薬には解決すべき問題が数多く残されており、多くの研究者が日夜研究を行っています。

医薬品の素となる化合物を自分たちの研究室から

私の研究室では、生物個体や細胞に対して微量で強い生理作用を示す、新しい生理活性化合物のデザインと合成に関する研究を行っています。その中心にあるのが、核酸の構成成分であるヌクレオシドの合成化学と医薬品化学です。ヌクレオシドと構造が似た化合物には、生体内でヌクレオシドと間違われることで癌やウィルスに対して有効な働きを示すものが数多く知られており、実際臨床の場で医薬品として使用されているものもかなりあります。(最近では、新型コロナウィルス感染症の治療薬として承認されたレムデシビルも該当します。)

このようなヌクレオシドと構造の似た新しい化合物を、期待される生物活性を目指してデザインし、さらに工夫を重ねて合成を行っています。得られた化合物の生物活性評価を通じ、より優れた活性を有する化合物のデザインと合成につなげていき、ゆくゆくは医薬品の素となる化合物を、自分たちの研究室から見出すことを目標としています。

また、構造的に新しいヌクレオシドを組み込んだDNAやRNAは、これまで核酸医薬の実現を阻んできた問題を解決できる可能性を秘めています。自分たちが合成したヌクレオシドと構造の似た新しい化合物を核酸医薬の構成素子として利用することも考えています。生物活性評価や核酸医薬の設計・合成については、自分たちの研究室だけでは対応が難しいので、共同研究の形で行っています。このような研究を通じて、新たな医薬品の創製に貢献することが、研究室の究極の目標です。

ソウル国立大学薬学部で講演した時の写真
ソウル国立大学薬学部で講演した時の写真
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→医療機関、製薬業界

●主な職種は→薬剤師(薬学部なので)、研究員、MR

●業務の特徴は→製剤研究、品質管理、医薬情報担当

分野はどう活かされる?

卒業生は幅広い化学の知識とスキルを有していますので、その経験を、主にジェネリックメーカーでの製剤研究や品質管理業務に活かしています。また、コンタクトレンズメーカーで研究開発を行っている卒業生もいます。

先生の学部・学科はどんなとこ

本学での創薬研究推進にあたり、文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成事業」に応募し、「アンメット・メディカル・ニーズに応える創薬基盤研究の推進および臨床応用への展開」に関する研究プロジェクトが採択されました。“アンメット・メディカル・ニーズ”とは、いまだ有効な治療薬/治療法のない医療ニーズのことで、この領域に含まれる疾患に対する治療薬/治療法の開発は、最も社会的要請の強い研究課題の一つです。

本プロジェクトのため複数の研究室から「創薬研究センター」が組織され、平成27年度から5年間にわたりプロジェクトが進行しました。私の研究室も本プロジェクトに参加し、ヌクレオシド誘導体の合成を中心に新規がん分子標的薬の開発研究を行いました。プロジェクトは終了しましたが、学内や他大学の研究室との共同研究の形で研究は継続しています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
興味がわいたら~先生おすすめ本

エイズ治療薬を発見した男 満屋裕明

堀田佳男(文春文庫)

エイズの原因ウィルスであるHIVが発見されて間もない時代に、治療薬発見に果敢に挑んだ満屋先生の伝記的ノンフィクション。世界で初めてのエイズ治療薬は、当時アメリカ国立ガン研究所に勤務していた1人の日本人によって見出されたものであることを知ってほしい。

危険を顧みず研究にかける情熱は、同書の中で野口英世と対比されているが、優れた研究を成し遂げた人達に少なからず共通する部分でもあるといえる。また、この本を通じて医薬品開発に必要なプロセス(例えば臨床試験と呼ばれる人体実験)、特許をめぐる争いなど、医薬品開発の裏側を知ることができ、高校生にも読みやすい作品だろう。 


分子レベルで見た薬の働き 生命科学が解き明かす薬のメカニズム

平山令明(講談社ブルーバックス)

分子レベルで薬の効く仕組みを解説する本。大学生レベルの内容ではあるが、薬の作用について基礎的な部分から解説されており、さらにそのカバーする範囲も幅広く、基礎から高度なレベルまで広範な知識を得るには適している。