細胞生物学

ミトコンドリア病

様々な疾患を引き起こす「ミトコンドリア病」に挑む


石川香先生

筑波大学 生命環境学群/生命地球科学研究群 生命環境系

出会いの一冊

ミトコンドリア・ミステリー 驚くべき細胞小器官の働き

林純一(ブルーバックス)

私が大学院生だった時の指導教員が、自身の研究半生を記した本です。ミトコンドリアという細胞小器官が研究対象となったきっかけ、ちょっと特殊なこの領域の研究手法、同じ領域で研究するライバル研究者とのやりとり、通説を覆す成果を生み出した過程などが、赤裸々に、生々しく(?)記されています。

研究者の発想やそれを立証するためのアプローチなどを知る上でも、参考になるかもしれません。発刊は20年以上前ですが、ミトコンドリアとその研究を知る上では今でも大いに参考になると思います。

こんな研究で世界を変えよう!

様々な疾患を引き起こす「ミトコンドリア病」に挑む

エネルギー分子を作るミトコンドリア

皆さんの細胞一つ一つの中に存在するミトコンドリア。このミトコンドリアは、皆さんが食事から摂った栄養素を材料に、細胞が活動するために必要なエネルギー分子「ATP」を作るという非常に重要な役割を担っています。

ミトコンドリアはもともと細菌が真核細胞に共生して生まれたと考えられていて、細菌時代の名残として核とは独立した独自のゲノムであるミトコンドリアDNAを持っています。

DNAの突然変異でATPの生産が低下

ミトコンドリアDNAに突然変異が蓄積すると、ミトコンドリア病と呼ばれる疾患が引き起こされます。ミトコンドリアDNAにコードされている遺伝子はすべてATP合成に関係するものなので、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異は例外なくATP産生能力の低下を招きます。

しかし、病気として現れる症状はとても多様で、なぜATP産生能力の低下という共通の一次現象から多様な症状の疾患が引き起こされるのかは、ほとんどわかっていません。私たちの研究室では、このミトコンドリア病の症状が多様化するしくみを、培養細胞やモデルマウスを用いて解明しようとしています。

遺伝子操作が難しく実験も困難

近年のゲノム編集技術の進歩により、核DNAに変異を導入することはかなり容易になりました。しかしミトコンドリアDNAは今でも人為的な操作が難しく、モデルマウスを作ること自体がかなり困難です。現時点では有効な治療法も乏しい難しい疾患であるミトコンドリア病をより深く理解するために、困難を乗り越えられるよう、継続的に取り組んでいます。

HeLa細胞というヒト由来の培養細胞のミトコンドリアを緑に、核を青に染色した蛍光顕微鏡写真です。
HeLa細胞というヒト由来の培養細胞のミトコンドリアを緑に、核を青に染色した蛍光顕微鏡写真です。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

生物学を志したきっかけは、高校時代の生物の授業がすこぶる面白くて「大学で学ぶならこの分野だ!」と思ったことです。ショウジョウバエを使った遺伝の実験でドハマりして、生物室に入り浸ってハエの実験ばかりしていたので、ハエ女と呼ばれていました。

筑波大学の生物学類に入学して、生物学全般を大いに愉しんでいましたが、研究室を選ぶ段階になってどこに行こうかと悩んだ際、林純一先生の研究室から発表された論文を読んで、その研究アプローチの独自性に感銘を受けて、林研に行こうと決めました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「ミトコンドリアの機能変化が細胞や生体に及ぼす影響の研究」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
ミトコンドリアの融合因子を機能不全にしたマウスの脳の電子顕微鏡写真。青く塗った部分はニューロンの軸索の縦断面で、軸索上にミトコンドリアが凝集して分布していることがわかります。
ミトコンドリアの融合因子を機能不全にしたマウスの脳の電子顕微鏡写真。青く塗った部分はニューロンの軸索の縦断面で、軸索上にミトコンドリアが凝集して分布していることがわかります。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 薬剤・医薬品

(2) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 中学校・高校教員など

(3) 大学等研究機関所属の教員・研究者

◆学んだことはどう生きる?

製薬企業や大学などの研究現場で最前線の研究員として活躍している卒業生が複数います。卒業後はもちろんミトコンドリア以外のものを研究対象とするわけですが、細胞や動物を用いて実験する基本的な手法は卒業後も変わらず役に立ちます。

なにより、「何がわかっていて」「何がわかっていなくて」「それを明らかにするためにはどういう実験が必要で」といった科学の基本アプローチは分野が変わっても共通ですので、研究室で学んだことが大いに活かされていると思います。

先生の学部・学科は?

何しろ教員の数が多いです。筑波大学の生物学類は1学年およそ80人ですが、生物学類を担当している教員も約80人います。こんな大学は他にないです。教員が多いということは、それだけ扱われる分野の幅も広く、多様性があります。

はやりの分子生物学ばかりではなく、系統分類学や進化学、生態学など、広い分野の生物学に触れることができます。生物学のいろんな分野を学んでから専門性を高めたいな、という人にはもってこいだと思います。

先生の研究に挑戦しよう!

一般的に高校の教科書などでは、ミトコンドリアは俵型(楕円体)の構造としてイラスト化されていることが多いです。でも、実際の細胞の中のミトコンドリアの姿は必ずしも俵型ではありません。

「ミトコンドリア」「形態」などのキーワードで検索して、細胞内のミトコンドリアの真の姿を調べてみましょう。可能なら、細胞内のミトコンドリアの「動き」についても、動画で見ることができると、イメージが大いに変わると思います。

中高生におすすめ

パラサイト・イヴ

瀬名秀明(新潮文庫)

宿主細胞にATPを供給している共生体のミトコンドリアが、もし宿主(ヒト)の支配を企んだら…? というSF小説です。薬学系の大学院生だった著者が経験に基づいて執筆していて、SFながら研究風景などのリアルな描写が玄人にもグッときます。


大人のための生物学の教科書 最新の知識を本質的に理解する

石川香、岩瀬哲、相馬融(ブルーバックス)

生物学に興味を持たれた方が入門書として読んで頂けるよう、身近な話題を取り入れながら執筆しました。共同執筆者は、私が生物学を志すきっかけとなった高校時代の生物の恩師と、私と同じように恩師の影響を受けて生物学を志した先輩です。

私自身が高校時代に生物学の面白さに触れてその道を志したので、当時の私と同年代の皆さんに、是非読んで頂きたいです。


はたらく細胞

清水茜(シリウスKC)

主に血球細胞の体内での奮闘ぶりを擬人化した漫画で、アニメ化もされました。免疫学や生理学の入り口としてお勧めです。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

やっぱり生物学。でも宇宙も好き。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

すぎやまこういち氏作曲の、『ドラゴンクエスト』のサントラ(オーケストラ版)です。生粋のドラクエマニアです。序曲は言わずもがな超有名ですが、ドラクエVの戦闘の曲「戦火を交えて~不死身の敵に挑む」は、学生時代も今も、仕事や課題に集中するときのテーマ曲です。

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

『天空の城ラピュタ』、『風の谷のナウシカ』、『もののけ姫』(生粋のジブラーでもあります)

Q4.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

ドラクエ一筋。学生時代一番やりこんだのはV、今もやっているのはオンラインのX。XIは胸アツ。

Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

ショウジョウバエの継代。大学のハエを扱う研究室でバイトとして数年勤務。ひたすらハエを新しい飼育瓶に移していく。高校時代から磨き、今も誇れるプロの技。

Q6.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

子どもとコスプレ(当時5歳の娘と『SPY×FAMILY』のコスプレをして沼にハマりかけたけど、ハマると経済的にも時間的にもいろいろヤバそうなので自制しました)。なお、母子でSPY × FAMILYのコスプレと言うと、ヨルさんとアーニャだと思う方が多いと思うのですが、私がなりきったのは父親のロイドさんです。


みらいぶっくへ ようこそ ふとした本との出会いやあなたの関心から学問・大学をみつけるサイトです。
TOPページへ