生体関連化学

人工酵素

自然界にない化学反応を実現する人工酵素の開発


加藤俊介先生

大阪大学 工学部 応用自然科学科(工学研究科 応用化学専攻)

出会いの一冊

若い読者に贈る美しい生物学講義 感動する生命のはなし

更科 功(ダイヤモンド社)

生物とは何か?進化とは何か?多様性とは何か?生物学に関連する感動の知識をユーモアも交えながら紹介する非常に面白い本です。本著のまえがきにある通り、生物学を専攻したいと考えている方も、そうでない方にも、是非読んでほしい一冊です。

こんな研究で世界を変えよう!

自然界にない化学反応を実現する人工酵素の開発

「酵素」は食品、医薬品、プラスチック製造に利用

生物の体内には、様々な化学反応を触媒する「酵素」と呼ばれるタンパク質が存在します。古くから人類は、これら酵素を発酵などの食品製造に利用してきました。例えば、お酒の製造において、糖分からエタノールを生成する化学反応も微生物内の酵素の働きによるものです。

また近年では、著しいバイオテクノロジーの発展も相まって、酵素を用いたものづくり(バイオコンバージョン)は、今や食品製造だけに留まらず、薬などの医薬品やプラスチックなどの化学工業製品の製造にまで幅広く利用され始めています。

生物由来の酵素には限りがある

しかしながら、自然界の生物に由来する酵素では、触媒することが出来る化学反応の種類に限りがあるのもまた事実です。生物が長い進化の過程で生み出した酵素は、あくまで「生物の生存戦略」として作られたものであり、必ずしも「人類の産業活動」のために必要な化学反応を触媒してくれる訳ではありません。

例えば、有機合成化学で汎用されるような貴金属触媒を用いたクロスカップリング反応を実行する酵素は、今のところ自然界から見つかっていません。

もしもこのような金属触媒反応を触媒する酵素を人工的に創造することが出来れば、バイオコンバージョンの産業利用を拡大する革新的な発見になるのではないでしょうか。

バイオテクノロジーを駆使して酵素を改変

このような着眼点から我々は、化学と生物学の両分野の学際領域で「自然界には見られない化学反応」を触媒する人工酵素の開発に取り組んでいます。

フラスコ内の金属触媒反応に関する化学的知見を参考に、最先端のバイオテクノロジーを駆使して酵素を改変することで、これまでに様々な非天然の金属触媒反応を実現する酵素の開発に成功しています。

将来的には、我々が開発する人工酵素が、バイオコンバージョンの有用性を拡張し、従来の化学合成プロセスを補完・代替する新たなものづくり技術となることを期待しています。

実験室の様子です。有機化学実験とバイオ実験の両方をしているのが特徴です。
実験室の様子です。有機化学実験とバイオ実験の両方をしているのが特徴です。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私はもともと、天然物合成や反応開発のような有機化学の王道の研究をしたくて大学に入学しました。しかし、大学の授業や学会・講演会に参加する中で、次第に生物学にも興味を持つようになりました。特に、DNA複製やタンパク質発現の機構を知った時は、化学では真似できない生物の精巧さにとても感動したことを覚えています。

今、私が化学と生物学の学際領域で研究をするようになったきっかけは、そのような知識を身につける感動の繰り返しにあったと思います。

大腸菌培養の様子
大腸菌培養の様子
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「高難度光ラジカル反応を実現する新規生体触媒の進化型開発」

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先生の分野を学ぶには
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私が所属する林研究室(大阪大学)のメンバー。
近くの公園でBBQをしました。
私が所属する林研究室(大阪大学)のメンバー。
近くの公園でBBQをしました。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(2) 薬剤・医薬品

(3) 半導体・電子部品・デバイス

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 設計・開発

(3) 大学等研究機関所属の教員・研究者

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

大阪大学 工学部 応用自然科学科は、学部2年への進級の際に「化学」「生物」「物理」の各コースへの進路を選択します。つまり、入学してから1年間、しっかりと大学の最先端の研究と教育に触れ、将来の進路を選択できるのは非常に魅力的であると思います。

また、そのように 応用自然科学科には「化学」「生物」「物理」に携わる様々な研究室があるので、学際領域研究が盛んなことも強みです。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

学研の科学

学研の科学編集部(Gakken)

小学生のころ毎月楽しみにしていました。間違いなく私が科学に興味を持った原点であると思います。2022年に復刊したと知り大変嬉しくなりました。もし周りに小学生のご家族・ご友人がいらっしゃれば、是非オススメされてください。


フロンティア生物無機化学

伊東忍、青野重利、林高史(三共出版)

生物の体内にあるタンパク質、特に金属イオンを含む「金属タンパク質」について、教科書レべルの基礎的内容から最先端の研究紹介まで、非常に分かりやすく体系的に解説されています。

無機化学の視点から金属タンパク質の作用機序を分子レベルで理解することで、様々な生命現象を説明できるということが大変興味深いと思います。


ウォーレン有機化学

Jonathan Clayden、Stuart Warren、Nick Greeves、訳:野依 良治、奥山 格、柴崎 正勝、檜山 爲次郎(東京化学同人)

大学生むけの有機化学の教科書です。高校の化学では暗記で終わってしまいがちですが、有機化学反応にはしっかりとしたルールと理由があります。そのような発展的な内容を勉強してみたい方はぜひ挑戦してみてください。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

多様性生物学・分類学。フィールドワークで生物採集をしてみたいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

イタリア。ご飯が美味しいから。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

スキューバダイビング部。沖縄・小笠原諸島など色々な場所に潜りに行っていました。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

スキューバダイビングのアルバイト。和歌山県串本町のダイビングショップで住み込みでお世話になりました。

Q5.好きな言葉は?

日進月歩


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